
高齢出産について雑誌やネットニュースなどで見聞きする機会は多いと思いますが、そもそも高齢出産とは何歳からなの?と疑問に思ったことはないでしょうか?
高齢出産では赤ちゃんがダウン症などの染色体異常をもって生まれてくる確率が高くなるなど、さまざまなリスクが指摘されています。
胎児の染色体異常を調べる検査に「出生前診断」がありますが、高齢出産では出生前診断を受けた方がよいのでしょうか?
今回は、高齢出産についてそのリスクとメリット、高齢出産と胎児の染色体異常の関係についてご紹介いたします。
高齢出産とは何歳から
高齢出産・高齢妊娠について明確な定義はありませんが、一般的には「35歳以上で初めて出産すること」を高齢出産としています。
女性の社会進出にともない自立した生活が送れる女性が増えたことで、晩婚化と高齢出産の割合が増えています。
実際に、昭和60年では高齢出産の割合がおよそ14人に1人だったのに対して、令和2年では3~4人に1人は高齢出産でしたので、いかに増えているかということが分かります。

(後述の「高齢出産の割合は増えている」項目参照)
しかし、年齢が高くなるほど生殖機能の衰えにより妊娠しにくくなり、妊娠・出産によるトラブルや胎児に染色体異常が起こる確率は高くなります。
高齢出産の6大リスク
30代、40代の女性が出産について不安に思うことは、「妊娠・出産・育児の体力が心配」「何かしらのトラブルが起きやすくならないか心配」「とりあえず漠然と不安」といった声があります。
年齢が上がるにつれて、体力や身体の機能が低下することにより起きやすくなるトラブルがあります。
しかし、妊娠前から気をつけることによって防げるトラブルや、検診による早期発見で悪化を防ぐことができるトラブルもあります。
高齢出産のリスクとしては次のものがあげられます。
【高齢出産の6大リスク】
- 難産
- 流産
- 帝王切開
- 妊娠合併症
- 子宮・卵巣のトラブル
- 胎児の染色体異常
【難産】
難産になる要因としては、ママの体力の低下や産道が柔らかくなりにくいことの他に、肥満や妊娠合併症の存在などがあります。
どれも日頃からの運動習慣や体調管理などでコントロール可能なので、高齢出産だから難産になりやすいというよりは個人差が大きく、20代前半の方でも不摂生をしていると難産になりやすくなります。
【流産】
自然流産の確率は、女性の年齢が高くなるほど上がります。
34歳以下では自然流産はおよそ10人に1人の割合ですが、
35歳~39歳ではおよそ10人に2人、
40歳以上ではおよそ10人に4人の割合でおこります。
高齢出産では流産の確率が高くなり、妊娠初期におこる流産の原因の約70%は受精卵に異常があるためにおこります。
【帝王切開】
医療技術の進歩などにより近年では4人に1人が帝王切開での出産をしていますので、帝王切開が必ずしもよくないわけではなく、むしろ無理に自然分娩を選ぶよりも安全ともいえます。
妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症がある場合、安全のために予定帝王切開とすることがあります。
それに加えて、加齢にともない婦人科系の病気が増えること、胎児機能不全などのトラブルがおこりやすいことなどから緊急帝王切開になるケースが増えます。
【妊娠合併症】
年齢が高くなると、血管が老化し高血圧などのトラブルがおきやすくなります。
妊娠すると、ママ自身とお腹の赤ちゃんの二人分の負担がかかるため、妊娠高血圧症候群のリスクが高くなります。
また、肥満などがあると妊娠糖尿病のリスクも高くなり、難産などにつながるおそれがあります。
【子宮・卵巣のトラブル】
子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣腫瘍などは自覚症状がないことが多いため、妊娠した後の検査で初めて発覚することが多くあります。
妊娠を望む場合は、妊娠前に検診を受けておくとよいでしょう。
高齢出産と染色体異常

女性の出産年齢が高くなると、胎児の染色体異常が起こる確率は高くなります。
そもそも胎児の染色体異常はどうして起こるのでしょうか?
染色体とは、遺伝子を含むDNAが、折り重なってできたものです。
卵子の中に精子が入り受精すると、受精卵が形成されます。
この受精卵が作られる過程では減数分裂など様々な変化が起こります。
染色体は父親と母親から1本ずつもらったものがペアとなっています。
減数分裂というのは、父親由来の染色体と、母親由来の染色体を正常な数に分裂することをいいます。
通常は2本になるはずのところを、1本になったり3本になったり、一部分が欠けていたりすると染色体異常が起こります。
染色体異常については「コラム:染色体とは?」もご参考にしてください。
高齢出産では、特に染色体が1本になったり3本になったりする「数の異常」がおこりやすくなることがデータ上分かっています。
染色体の数が3本になる変化を「トリソミー」といいますが、トリソミーの中で一番頻度が高いのが21トリソミー(ダウン症)です。
【染色体異常を持って生まれてくる子の内訳】

新型出生前診断(NIPT)で検査をする一般的な疾患としてダウン症(21トリソミー)の他に「18トリソミー」や「13トリソミー」がありますが、これらも高齢出産になるほど発生頻度が高くなります。
【女性の出産時の年齢と子の染色体異常罹患率】

新型出生前診断については「コラム:新型出生前診断では何がわかるの?」もご参考にしてください。
また、男女の性別を決める性染色体の数の異常によっておこる疾患のうち、「クラインフェルター症候群」や「トリプルX症候群」は、高齢出産になると頻度が増える傾向にあります。
一方で、同じく性染色体の数に異常によっておこる「ターナー症候群」や「XYY症候群」の発生頻度は、高齢出産でもわずかに上昇する程度です。
高齢出産では出生前診断を受けるべき?

高齢出産では胎児に染色体異常が起こる確率が高くなるということは、出生前診断は受けておくべきなのでしょうか?
結論からいうと、どちらが正解というのはありません。
出生前診断とは生まれる前にお腹の赤ちゃんについて病気や障がいがないかを調べる検査で、本来は分娩環境の整備や生まれたあとの治療につなげるためのものです。
しかし、人工妊娠中絶が可能な期間に実施することから、きっと一組一組のカップルは悩んだ末の決断であるのに、命の選別につながるともいわれています。
出生前診断では分からないこともありますし、望まない結果だったときに思わぬ決断を迫られることもあるかもしれません。
出生前診断は個人の価値観や倫理観、人生観などによってさまざまな考え方、とらえ方がありこれが正解というものはありません。
自身の年齢で胎児に染色体異常がおこる確率を高いと考えるかそうでもないと考えるのかは人それぞれで、高齢出産だからといって、必要ないと考えるのならもちろん受ける必要はありません。
出生前診断については「コラム:出生前診断ってなに?」もご参考にしてください。
そうはいっても、何を基準に考えればよいのか?自分たちが知っている情報は正しいのか?不安に思うこともたくさんあると思います。
そのようなときは、「遺伝カウンセリング」で専門家に相談することができます。
「カウンセリング」と聞くと堅苦しい印象があるかもしれませんが、遺伝カウンセリングの目的はカップルが不安に思うことを明確にし、お二人に寄り添って一緒に問題解決を図るものです。
そのために必要な検査の内容や意味、結果の理解の仕方、カップルとそのご家族について遺伝的に心配に思うこと、対象疾患への理解について分かりやすく説明してくれて相談にのってもらえます。
遺伝カウンセリングについては「コラム:遺伝カウンセリングとは?」もご参考にしてください。
出生前診断を受けるべきか受けなくてもよいのか?メリットとデメリットをきちんと知ったうえで、カップルでしっかりと話し合うことが大切です。
高齢出産の割合は増えている
晩婚化に伴い高齢出産の割合が増えているといいますが、実際どれくらい増えているのでしょうか?
厚生労働省の人口動態統計(外部サイトへ移動します)より、「昭和60年」「平成17年」「令和2年」で比較してみました。
【母の年齢(5歳階級)別出生数の年次推移】
母の年齢 | 昭和60年(1985) | 平成17年(2005) | *令和2年(2020) |
---|---|---|---|
総 数1) | 1,431,577 | 1,062,530 | 840,832 |
19歳以下 | 17,877 | 16,573 | 6,948 |
20~24 | 247,341 | 128,135 | 66,750 |
25~29 | 682,885 | 339,328 | 217,802 |
30~34 | 381,466 | 404,700 | 303,434 |
35~39 | 93,501 | 153,440 | 196,322 |
40~44 | 8,224 | 19,750 | 47,899 |
45歳以上 | 245 | 598 | 1,676 |
*印は概数である。
1)総数には母の年齢不詳を含む。
【母の年齢階級別出生数(表1)】

出生数の総数自体は減少していますがそれでも(表1)より、あきらかに高齢出産が増えていることが分かります。
実際に、35歳以上の高齢出産の割合は増加しており、昭和60年は7.1%でしたが、平成17年は16.4%、令和2年は29.2%と、35年間の間で4倍以上に増えていることが分かります。
出産適齢期っていつ

出産適齢期とはいつ頃のことをいうのでしょうか?
卵子や女性ホルモンの問題でいえば、20代前半~32歳頃が一番生殖機能が成熟した、出産適齢期といえます。
卵子の数は一生の間で決まっていて、生まれる前の胎児の段階で卵子の数は700万個ありますが、生まれるときにはすでに200万個程度に減少します。
思春期の頃には30~50万個程度に減り、月経のたびに数が減っていきます。
35歳頃から卵子の質の低下が徐々に始まり、37歳頃には卵子の数は2万個程度にまで減少します。
卵子の数が減少するとそれだけ妊娠しにくくなりますし、卵子の老化により胎児に染色体異常がおこる可能性が増え、それにともなう流産の確率も高くなります。
また女性ホルモンの量も一生の間で変化します。
女性ホルモンは妊娠・出産のために必要不可欠です。
女性ホルモンは初潮を迎える頃から分泌量が増え始め、20代~30代前半をピークに35歳頃から卵巣機能の低下とともに徐々に減少します。
体力や体調面での出産適齢期という意味では、個人差が大きくなります。
妊娠や出産、育児には体力が必要ですが、30代後半でも運動習慣があり体力のある人がいれば、20代前半でも体力のない人はいます。
体調管理についても同様で、生活習慣病などがあると妊娠・出産時のトラブルがおこりやすくなります。
また、人生設計や生活環境などによって子どもが欲しいと思うタイミングは人それぞれですので、欲しいと思ったときが出産適齢期ともいえるかもしれません。
そのためには、日頃から自身の健康管理に気をつけておくことは大切です。
高齢の初産婦と経産婦にリスクの違いはあるのか?
高齢出産は「35歳以上の初産婦」としていますが、二人目以降の「経産婦」の場合はなにか違うのでしょうか?
明確な定義はありませんが、年齢によるリスクは同じですので基本的には初産婦でも経産婦でも変わりません。
高齢での初産婦の場合、通常より出産に時間がかかる可能性がありますが、妊娠・出産に必要である基礎的な体力は個人差があるため、若い妊婦さんでも出産に時間がかかることもあります。
二人目以降の出産では、前回の出産で「妊娠高血圧症候群」や「妊娠糖尿病」になったことがある人は繰り返す可能性が高くなりますので、より一層の体調管理が必要です。
その一方で、おなかの赤ちゃんに染色体異常がおこる確率は、それぞれの妊娠で独立しておりほとんどの場合は関連がありません。
一部の染色体異常については遺伝する可能性もありますので、心配なことがある方は遺伝カウンセリングで相談してみるのがよいでしょう。
高齢出産のリスクを減らす7つのポイント

ここまでは、高齢出産でおこりやすいトラブルについてみてきました。
おこりやすいトラブルを知っておくことで、気をつけるポイントが分かりますね!
赤ちゃんが欲しいと思ったとき、高齢出産のリスクを減らすために次のことを意識してみましょう!
【高齢出産のリスクを減らす7つのポイント】
- 生活リズムを整える
- 食習慣の見直し
- 適度な運動
- 禁煙
- ストレスを減らす
- 身体を冷やさないようにする
- 葉酸を摂る
不摂生な生活やストレスの多い生活を送っていると、女性ホルモンが乱れやすくなります。
まずは生活のリズムを整え、できるだけきまった時間に寝起きすることと食事を摂ることを意識しましょう。
食事の基本は1日3食ですが、長い間の習慣を無理に変える必要はありません。
お腹の赤ちゃんとママの身体作りのために良質なタンパク質と、不足しがちな鉄分やカルシウム、お腹の調子を整えるための食物繊維をバランスよく摂れるよう心掛けましょう。
外食や出来合いのものは塩分が多くむくみやすくなりますので、毎食は無理でも調整がきくよう自炊ができるといいですね。
また、妊娠初期に葉酸が不足すると胎児に「神経管閉鎖障害」などの先天異常がおこる可能性があります。
妊娠を意識するようになったら積極的に葉酸を摂るようにしましょう。
極端な肥満ややせがあると、女性ホルモンの乱れやさまざまな妊娠合併症につながります。
適度な運動や食習慣の見直しとともに、体重を測る習慣もつけましょう。
女性の年齢が上がるほど卵子の数が減少することに加えて、タバコを吸っているとさらに減少する、妊娠しにくくなる、卵子の質が低下するなどのリスクがあります。
妊娠を考えるならスパッと禁煙しましょう。
身体が冷えていると、つわりがひどくなったり出産に時間がかかったりします。
服装に気をつけたり半身浴をするなど、身体を冷やさないように気をつけましょう。
高齢出産のメリット!
高齢出産にはリスクが多いようですが、いいことももちろんあります!
20代前半と違うことは、豊富な人生経験と積んできたキャリアがあり、精神的にも経済的にもゆとりがあり落ち着いた環境で子育てができるという点です。
20代のうちに仕事や趣味など自分の好きなことに打ち込み、満喫したからこそ子育てにもより一層の情熱を注ぎやすくなるという方が多いようです。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
高齢出産には妊娠中のトラブルや胎児の染色体異常がおこりやすくなるなどのリスクがありますが、気をつけることで防げるトラブルもありますし、何かあったときに対応しやすくなります。
どの年齢でも妊娠・出産について心配なことや不安なことはたくさんあるでしょう。
「できれば子どもが欲しい」と思っている35歳以上のカップルは、協力して妊娠・出産に望めるよう不安解消のためにライフプランをよく話し合ってみてください。
早く可愛い我が子の笑顔に出会えることを心より願っています。