5人に1人が帝王切開で出産しており多くの人が受けている手術ですが、どのような場合に帝王切開となるのでしょうか?
妊娠の経過でなんらかの問題があった場合に行なわれることもありますが、高齢出産で安全を考慮して帝王切開とするケースもあります。
ここでは帝王切開にまつわるさまざまな疑問についてご紹介しております。
帝王切開とは
帝王切開とは妊婦さんのおなかと子宮を切開して赤ちゃんを出産する方法のことで、さまざまな理由で経腟分娩が難しい場合に行なわれます。
おなかを切り開くというと「こわい」「リスクが高い」といった印象を持たれる方が多いかもしれませんが、医療技術の進歩や出産年齢の高齢化により帝王切開の割合は増加しています。
むしろ経腟分娩ではリスクが高い場合に帝王切開が行なわれ、事前に準備を整えて管理ができますので安全度は高いといえます。
経腟分娩と帝王切開の出産方法の違いによって何か赤ちゃんに影響が出ないの?と思われる方もいらっしゃいますが、産まれた後の赤ちゃんの成長には影響ありません。
帝王切開の割合
どれくらいの人が帝王切開で出産しているのでしょうか?
厚生労働省が集計したデータによると、2020年(令和2年)に帝王切開した人の割合は一般病院で27.4%、一般診療所では14.7%、合算で21.6%でしたので、およそ5人に1人の割合で帝王切開をしていることになります。
少子化により出生数自体は減少しており、1990年には122万人だったのが2020年には84万人で過去最少となっていますが、それでも帝王切開の件数自体も増加していて、いかに増えているかが分かりますね。
帝王切開になるケース
帝王切開には事前に計画して行なわれる「予定帝王切開」と、突然のトラブルで急遽行われる「緊急帝王切開」があります。
どのような人が帝王切開で出産しているのでしょうか?
予定帝王切開
予定帝王切開とはお産が始まる前に計画して実施される帝王切開のことで、妊娠37週までの妊婦健診で自然分娩が難しいと判断された場合に行なわれます。
多くの場合は赤ちゃんの成長が十分で陣痛が起こる前の妊娠37~38週に手術を行ないます。
【予定帝王切開になるケース】
- さかご
- 双子出産
- 前置胎盤
- 児頭骨盤不均衡
- 重症の妊娠高血圧症候群
- ママの持病
- 過去に帝王切開をしている
- 子宮の手術を受けたことがある
- 高齢出産
*さかご*
さかごのすべてが帝王切開になるわけではありませんが、逆子での経膣分娩は赤ちゃんが怪我をする可能性があるだけでなく、早く破水したりへその緒が先に出てしまったりと難産になりやすいためほとんどは予定帝王切開とします。
*双子出産*
双子以上の多胎妊娠では、母体内のスペースや能力には限りがあるにもかかわらず赤ちゃんの人数が増えるため1人の妊娠よりも母体への負担が増え、早産や一児発育不全などになる可能性や分娩にともなうリスクが高くなります。
双子の出産でも経腟分娩が可能な場合もありますが、母子の状態や産院の方針によって予定帝王切開とします。
*前置胎盤*
前置胎盤(ぜんちたいばん)とは、胎盤が子宮の出口あたりに形成されてしまい一部または全部を塞いでしまっている状態で、出血量が多くなるなど分娩時のトラブルがおこりやすいため、多くは予定帝王切開とします。
*児頭骨盤不均衡*
ママの骨盤が小さいことや形によって赤ちゃんの頭の通過が難しい場合に予定帝王切開とします。
*重症の妊娠高血圧症候群*
妊娠高血圧症候群は妊婦さんの約10~15人に1人の割合で起こり珍しいものではありません。
しかし重症化すると血液の流れが悪くなり、おなかの赤ちゃんに十分な栄養や酸素が届かず発育や状態が悪くなると出産予定日を待たずに帝王切開とすることがあります。
*ママの持病*
妊婦さん自身に心臓病や腎臓病などの持病がある場合や、子宮筋腫の位置が分娩に影響する場合などは予定帝王切開となりやすくなります。
*過去の手術*
過去に帝王切開で出産したことがある人や、子宮の手術を受けたことがある人はその状態によって経腟分娩が難しいと判断された場合は帝王切開となります。
*高齢出産*
35歳以上で初めて出産することを一般的に高齢出産といいますが、年齢が上がるにつれて子宮口などの柔らかさが低下し難産になりやすくなります。
そのほか婦人科系の病気が増えることや、妊娠合併症もおこりやすくなるため、安全のために予定帝王切開とすることがあります。
緊急帝王切開
緊急帝王切開とはおなかの赤ちゃん又はママに突然のトラブルが起きて、予定していた経腟分娩よりも前に急いで赤ちゃんを取り出す必要がある場合に行なわれます。
出産予定日よりも前に行なわれるケースと、経腟分娩の途中でトラブルが起きて急遽緊急帝王切開に切り替えるケースがあります。
【緊急帝王切開になるケース】
- 胎児機能不全
- 分娩が長引いている(遷延分娩)
- 臍帯脱出
- 回旋異常
- 常位胎盤早期剥離
*胎児機能不全*
おなかの赤ちゃんに心音低下や仮死兆候といった異常が見られる場合、または異常が生じるかもしれないと判断された場合に緊急帝王切開となります。
*遷延分娩*
経腟分娩を目指してお産が始まったものの、子宮口が十分に開かなかったり赤ちゃんの身体が引っかかるなどしてお産が長引いている場合、途中で帝王切開に切り替えることがあります。
*臍帯脱出(さいたいだっしゅつ)*
さかごでの経腟分娩の際に多い臍帯脱出は、赤ちゃんより先にへその緒が出てしまう状態のことで、へその緒が強く圧迫されると赤ちゃんに酸素が届かなくなり危険な状態になるため緊急帝王切開に切り替えます。
*回旋異常*
分娩の際に赤ちゃんは狭い骨盤や産道を通るために少しずつ頭や体の向きを変えて出てきますが、それがうまくいかない状態を回旋異常といい、分娩が長引きやすく赤ちゃんの状態によって帝王切開となります。
*常位胎盤早期剥離*
胎盤は通常赤ちゃんが産まれた後に自然とはがれて排出されますが、なんらかの理由によってお産が始まる前に胎盤がはがれてしまうことを常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)といいます。
胎盤がはがれてしまうと赤ちゃんに酸素や栄養が届かなくなったり大量出血がおこる可能性がありますので、一刻も早く赤ちゃんを取り出してあげる必要があります。
帝王切開の手術
帝王切開の手術はどのような流れになるのでしょうか?
予定帝王切開の場合は前日に入院し、手術から1週間~10日程度で退院するケースが一般的です。
手術のための麻酔は大半は局所麻酔のため意識があり、産声や周りの様子も聞こえます。
手術後は麻酔が切れると痛みが出ますが、どうしても痛い場合は痛み止めを処方してもらえます。
入院~手術前
手術の前日に入院し、事前の説明を受けて同意書にサインをします。
当日は手術に備え飲食ができません。
点滴や尿を出すための細い管を入れて準備を行ないます。
手術
帝王切開のための麻酔は多くは下半身だけの局所麻酔ですが、全身麻酔の場合もあります。
局所麻酔は痛みは感じませんが意識があるため、産声が聞こえて産まれた瞬間を感じることができます。
お腹の下の方を切開しますが、縦に切るケースと横に切るケースがあります。
子宮を切開して赤ちゃんを取り出します。(赤ちゃんの誕生!)
子宮を縫い合わせ、お腹の皮膚は手術用の縫合糸や医療用ホチキス、接着剤などで閉じます。
ベッドで病室へ移動します。
手術当日の食事や水分補給は点滴で行い、排尿も手術前に入れた管から行います。
赤ちゃんもママも元気で健康に問題がなければ手術当日に赤ちゃんと面会できることもあります。
術後~退院
手術後はしばらくベッドの上で過ごします。
麻酔の効果は数時間でなくなるため、傷が痛み出します。
手術の傷の痛みに後陣痛が加わることもありますが、痛み止めを処方してもらえますので無理して我慢する必要はありません。
*後陣痛とは*
後陣痛(こうじんつう)とは、出産後数日の間に子宮が元の大きさに戻ろうとして収縮することでおこる痛みのことです。
これは経腟分娩に限らず帝王切開でもおこります。
経過が順調であれば手術の翌日~2日後くらいから授乳を開始し、排尿のための管や点滴が外され食事もできるようになります。
お腹を切開しているため動くのが怖いと感じるかもしれませんが、長時間ベッドで過ごしていると血栓症になりやすいため、予防するためにも少しずつ身体を動かしていきます。
体調がよければ術後4日~6日程度でシャワーを浴びることができます。
術後およそ1週間で抜糸、医療用ホチキスを外します。
手術後およそ7日~10日で退院となります。
帝王切開にかかる時間
帝王切開の手術時間は、麻酔から子宮を縫い合わせるまでおよそ30分~1時間程度です。
おなかを切開して赤ちゃん誕生まではわずか5~10分ほどです。
一方で経腟分娩の場合は個人差がありますが、陣痛が始まってから赤ちゃんが産まれるまでは初産婦で12~16時間、経産婦で5~8時間程度で、子宮口が全開になってから赤ちゃんが産まれるまでは初産婦で2~3時間、経産婦で30~60分程度です。
縦切開と横切開の違い
帝王切開には「縦切開」と「横切開」がありますが、どのように違うのでしょうか?
*縦切開*
おへその下から真下に切る方法です。
赤ちゃんと同じ方向へ切開するため赤ちゃんを取り出しやすく、緊急帝王切開の場合に多く選択される切開方法です。
傷跡が目立ちやすい縦切開ですが、お腹の筋肉や腱は縦方向に走っているので治りが早いのが特徴です。
*横切開*
アンダーヘアの上あたりを横方向へ切る方法です。
傷跡が目立ちにくいのがメリットですが、手術に少し時間がかかります。
どちらの切開方法になるかは母子の状態や病院の方針などによって異なりますが、通常は横に切開します。
帝王切開の傷跡
帝王切開の傷跡はいつ頃治るのでしょうか?
手術から3日ほどは炎症がおこり痛みもピークですが傷口自体はふさがってきます。
その後傷口の下では新しい細胞が増殖して傷を埋めていきますが、この過程で赤く盛り上がったりかゆみが出てくることがあります。
約3週間が経つ頃には細胞の増殖が落ち着き、かゆみなども引いてきます。
そして経過に問題がなければ約1年をかけて目立ちにくい白い傷跡になっていきます。
ただし、なかには肥厚性瘢痕やケロイドと呼ばれる赤く盛り上がった状態になり、傷跡が残りかゆみや引きつれの原因になることがあります。
傷跡が目立つNG行動!
お腹は傷あとが残りやすく、ケロイドについては体質も影響すると考えられていますが、その中でもやってはいけないNG行動があります。
【傷あとが目立つNG行動】
- 傷あとへの刺激
- 衣服との摩擦
- 乾燥
目立つ傷跡を残さないようにするためには、ケロイドにならないように手術後の早いタイミングからケアをすること、NG行動をとらないようにすることが大切です。
傷あとへの直接の刺激だけでなく、周りの皮膚が引っ張られることでも炎症がおきます。
また衣服の摩擦による刺激や乾燥も傷を悪化させる原因となりますので、傷あとを保護しつつ動かさないようにすることが大切です。
これらの刺激から傷あとを保護するために傷あと専用のテープもありますので、上手く活用してみるとよいでしょう。
二人目の出産も帝王切開?
一度帝王切開で出産すると、次も帝王切開となるのでしょうか?
これは帝王切開をした理由などによって異なります。
たとえば、一度目の帝王切開がママ側に原因があった場合は二人目も帝王切開となるケースが多くなります。
経腟分娩が可能な場合でも、一度子宮を切開しているためその部分が弱くなり子宮破裂のリスクが高くなっています。
安全を考慮して一人目の出産が帝王切開なら二人目もそうすることが多くなりますが、経腟分娩が可能な場合もありますので、どうしても希望があるのなら医師にご相談してみてください。
帝王切開の費用
帝王切開にはいくらくらいの費用がかかるのでしょうか?
自然分娩と比べて入院日数が長くなるだけでなく、手術にかかる費用も増えるためかなり高額になりそうなイメージがあるのではないでしょうか。
分娩にかかる費用は地域差があるほか利用できる給付金制度や保険の加入状況などによって戻ってくる金額が異なりますので一概には言えません。
一般的には帝王切開では自然分娩より10万円程度負担額が増えるイメージです。
出産は病気ではないため自然分娩の場合は保険適用外になり、入院・分娩にかかる費用は全国平均でおよそ50万円程度になります。
ただし出産育児一時金として子ども一人につき42万円がもらえ、これは自然分娩でも帝王切開でも同じです。
帝王切開では入院日数が長く手術にともなう費用も増えますが、保険がきくため3割負担となります。
さらに一定の金額を超えた場合は高額療養費制度も適用されるため、戻ってくる金額が多くなります。
まとめ
帝王切開は自然分娩ではリスクが高いと判断された場合に実施され、準備を整えて管理ができるため結果として母子ともに安全性を高めることができます。
出産方法にこだわらず、生まれてきた赤ちゃんと大切な時間を過ごしてくださいね。