
妊娠中にはさまざまなトラブルがおこる可能性があり、前置胎盤もその一つです。
前置胎盤の多くは妊娠の経過で自然と改善されますが、そのまま妊娠後期を迎えるとどうなるのでしょうか?
また、なりやすい人の特徴はあるのでしょうか?
このコラムでは、前置胎盤の原因やいつわかるのかなどについて解説するとともに、ダウン症との関係についてもご紹介しています。
前置胎盤だとどうなるか

前置胎盤(ぜんちたいばん)は、胎盤が子宮の出口付近に形成されたために、子宮口の一部や全部を覆っている状態のことをいいます。
前置胎盤では次のようなトラブルがおこる可能性があります。
【前置胎盤による起こりやすいトラブル】
- 帝王切開のリスク
- 出血
- 早産のリスク
*帝王切開のリスク*
胎盤が完全に子宮口を覆っていると経腟分娩が難しく、ほとんどは帝王切開となります。
経膣分娩では赤ちゃんが先に出てきてそのあと胎盤が出てきますが、前置胎盤では胎盤が赤ちゃんよりも下(膣)側に位置しています。
このため、分娩時に大出血のリスクが高まり、赤ちゃんの命にも危険が及ぶ可能性があります。
前置胎盤の場合、胎盤の位置にもよりますがほとんどは予定帝王切開となります。
*出血*
ほとんどの人は前置胎盤と診断されても無症状ですが、痛みもなく突然性器から出血することがあります。
出血の量は少量のことも、大出血をおこすこともあります。
特に妊娠後期の方が出血をおこしやすくなるため注意が必要です。
いつ分かるのか?

胎盤の様子は妊婦健診の超音波検査で定期的に確認します。
妊娠3ヶ月である、妊娠10週ごろから超音波検査で胎盤を確認できるようになりますが、妊娠が進むにつれて子宮が伸び、胎盤の位置は移動します。
そのため、妊娠初期や妊娠中期に前置胎盤だったとしても、出産までにほとんどは自然に改善されます。
妊娠後期になっても前置胎盤が続いている場合、出血や早産のリスクに注意しながら、出産方法を検討します。
妊娠中期までの前置胎盤は自然に改善される可能性があるため、過度に心配する必要はありません。
なりやすい人の特徴
前置胎盤のリスクが高い人は、以下の特徴があげられます。
【前置胎盤になりやすい人の特徴】
- 高齢出産
- 出産回数が多い
- 双子など多胎妊娠
- 子宮手術の既往歴
- タバコを吸っている
一般的に35歳以上で初めて出産することを高齢出産といい、前置胎盤になる可能性が高くなります。
双子や三つ子などの多胎妊娠の場合、胎盤の数が増えるため前置胎盤のリスクが高くなります。
帝王切開や子宮筋腫の摘出手術など、子宮の手術を受けたことがある女性は、妊娠した際に胎盤が子宮の傷跡に付着するリスクがあり、前置胎盤になりやすくなります。
そのほか喫煙は妊娠中のさまざまなリスクを高めるほか、前置胎盤のリスクも高まるとされています。
ただしこれらの要因があっても必ずしも前置胎盤になるわけではありませんし、逆にこれらの要因がなくても前置胎盤になることがあります。
妊娠中は定期的な検診や超音波検査を受け、医師の指示に従って適切なケアを受けることが重要です。
原因

前置胎盤になる原因ははっきりとはわかっていませんが、要因としては前述のように子宮の手術痕に胎盤が付着することや、子宮筋腫があるなど子宮の形が通常と異なるために胎盤の位置が制限されることなどが考えられます。
また、年齢が高いことや出産回数が多いことなどで子宮の弾性が弱まっていることも要因としてあげられます。
胎盤の正常な位置と役割

胎盤の正常な位置は子宮の上部で、子宮口からは離れた場所にあります。
胎盤と胎児はへその緒(臍帯:さいたい)でつながっており、妊娠中の母体と胎児の間で重要な役割を果たしています。
【胎盤のはたらき】
- 栄養の供給
- 酸素と二酸化炭素の交換
- 代謝産物の排出
- ホルモンの分泌
- フィルターとしての役目
赤ちゃんは必要な栄養や酸素を胎盤を通してママから受け取り、いらない代謝産物や二酸化炭素を送り返して排出しています。
このように胎盤は未熟な胎児の臓器の代わりとして、母体との間で必要なものの受け渡し場所として機能しています。
また、胎盤は妊娠を維持するためのホルモンを分泌し、母体の乳腺を発達させる役割があります。
そのほか、胎児に有害な物質が届かないようにフィルターとしても機能しています。
母体の血液中に含まれる物質の中から、ウイルスや一部の薬品など胎児にとって有害なものは遮断し、有益なものだけを通過させるはたらきがあります。
ただし胎盤は完全なフィルターではないため、アルコールやタバコのニコチン、大型魚に多く含まれる水銀などは通過してしまいます。
低置胎盤

前置胎盤ほどではないものの、胎盤が子宮口のわりと近くに形成されるものを「低置胎盤(ていちたいばん)」とよびます。
胎盤が子宮口に近いほど出血のリスクが高まるため、状態を確認しながら分娩方法の検討が必要です。
前置胎盤の多くは帝王切開で出産
前置胎盤の場合、出産方法は胎盤の位置や状況、母体や胎児の状態によって異なりますが、多くの場合は帝王切開での出産が選択されます。
また、前置胎盤の度合いや出血の状況、胎児の成長に応じて、出産時期を検討します。
帝王切開はお腹を切り開くためこわいといった印象を持たれている方が多いかもしれませんが、事前に準備を整えて管理ができますので、何がおこるか分からない経腟分娩よりむしろ安全度は高いといえます。
帝王切開については、「コラム:帝王切開になるのはどんな人?傷跡が目立つNG行動とは」もご参考にしてください。
前置胎盤だとダウン症の確率が高い?
「前置胎盤」と検索すると、続いて「ダウン症」と検索候補が出ませんか?
前置胎盤がダウン症の確率を直接高める要因ではありません。
ダウン症は、染色体の異常によって引き起こされる遺伝性疾患で、特に母親の高齢化がそのリスクを高めることが知られています。
一方で、前置胎盤のリスクも高齢出産と関連があることが報告されています。
したがって、高齢出産のリスクとして、前置胎盤とダウン症が同時に起こる可能性はありますが、前置胎盤がダウン症の発生リスクを高めるわけではありません。
妊娠中は定期的な検診を受け、医師と十分に相談し、適切なケアを受けることが大切です。
また、ダウン症のリスクを事前に評価する検査(例: 出生前診断)もありますので、不安がある場合は医師にご相談くださいね。
まとめ

前置胎盤は年齢を重ねてからの出産や出産回数の多い人、タバコを吸っている人などがなりやすく、近年その人数は増えています。
妊娠中期までに前置胎盤だと診断されてもその多くは出産までに改善されますので、出血や早産のリスクに注意を払いながら定期的に検査を行います。
妊娠後期まで続く場合は、痛みがなく突然出血することがありますので、早産を防ぐためにも安静に過ごしたり入院が必要になることもあります。