1p36欠失症候群は染色体異常の一つで、生涯にわたる継続的な治療やサポートが必要なことから、小児慢性特定疾病として認定されています。
症状としては重度の精神発達遅滞、難治性てんかんなどの神経症状をはじめとして、心奇形や腎奇形、脳異常など、臓器を含む全身の多部位にさまざま合併症をきたし、生涯に渡って患者の健康と発達に影響を及ぼします。
ここでは1p36欠失症候群について、どのような特徴があるのか?原因は?といった基本的な情報について分かりやすくご紹介いたします。
1p36欠失症候群の特徴と症状
【1p36欠失症候群の特徴と主な症状】
- 精神運動発達遅滞
- 難治性てんかん
- 筋緊張低下
- 先天性心疾患
- 特徴的な顔貌
- 脳異常、脳奇形
- 言語障害
- 視覚障害
- 難聴
- 低身長
- 口腔顔面裂
- 腎異常、腎奇形
- 短指症
精神運動発達遅滞
重度から最重度の精神発達の遅れが見られます。
その程度はさまざまですが、精神発達の遅れはすべての人に見られ、大多数で重度です。
精神および運動発達は遅れながらも伸びていきますが、自力歩行ができない場合もあります。
脳の異常
6〜9割の患者に何らかの脳の異常が見られます。
何らかの脳の異常には脳の一部または全体の萎縮、側脳室の拡大、脳の発達過程における神経細胞の障害などがあります。
これによって認知機能の低下や運動能力の低下、行動異常やてんかんなどといった症状が引き起こされます。
多くの人に言語障害があり、構音障害を示しながらも会話が可能になる場合もあれば、言葉の理解や使用が困難で全く話さないこともあります。
行動異常
およそ半数の患者に行動異常が見られます。
具体的には社会性が乏しく、かんしゃくを起こす、自傷行為として自分を噛む、同じ動作を繰り返すといった行動があります。
自力歩行ができて、日常生活も比較的自立している患者の場合、過食が見られることもあります。
顔の特徴
染色体異常では疾患ごとに似たような特徴を持つ顔立ちが見られることがありますが、1p36欠失症候群も以下の特徴的顔貌があることで知られています。
【1p36欠失症候群の特徴的顔貌(がんぼう)】
- 幅が広くくぼんだ鼻梁(鼻の上部)
- 落ち窪んだ目
- 直線的な眉毛
- 長い人中(鼻と上唇の間)
- 尖った顎
- 中顔面後退
- 小短頭症
- 耳介低位
中顔面後退とは、顔の真ん中の鼻や頬のあたりが引っ込んでいる状態です。
耳介低位とは通常より低い位置に耳がある状態で、約半数の患者に難聴が見られます。
すべての特徴があるわけではなくその程度もさまざまです。
難治性てんかん
てんかんは脳の異常な電気活動により引き起こされる慢性的な神経疾患で、意識の喪失、運動機能の異常、感覚の変化、行動の変化など、さまざまなてんかん発作を引き起こします。
てんかん発作は患者の半数以上に見られます。
先天性心疾患
大部分の患者は心臓に構造的および機能的な問題を抱えていますが、そのほとんどは生命を脅かすものではなく、適切な治療や手術によって管理することができます。
約25%の患者は心筋症を患っています。
なぜ起こる?原因とは
1p36欠失症候群は染色体異常によって起こる、先天性の病気です。
ヒトの染色体は23対(46本)あり、そのうち22対の常染色体は長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
1p36欠失症候群は、1番染色体の短腕(p)の特定の領域が欠失していることが原因で起こります。
染色体は親から子へ「ヒト」の情報を伝える役割を担っています。
どの領域がどのような情報を伝えているのかは研究が進められていますが、1p36欠失症候群群の場合は上記の領域が欠けていることによって、特徴的な顔貌や発達障害、行動異常などの類似の症状が現れることが分かっています。
遺伝するのか?
染色体異常と聞くと親から子へ遺伝するように感じる方が多いようですが、その多くは遺伝ではなく突然変異で起こります。
1p36欠失症候群もそのほとんどは卵子や精子が減数分裂する際のエラーなどによって偶然起こるもので、家族歴や妊婦さんの生活習慣や飲食物などは関係ありません。
遺伝する可能性があるのは、両親のどちらかが染色体構造の変異を持っているけど症状はない「保因者」であるケースです。
治療方法
1p36欠失症候群の原因である染色体異常そのものを治療する方法は存在しないため、症状の管理と生活の質の向上を目的として治療を行っていきます。
これには各症状に応じた多方面的なアプローチが必要です。
発作の管理には抗てんかん薬を使用して制御し、心臓の問題には心臓専門医による定期チェックや必要に応じた外科的介入が行われます。
成長するにつれて言語発達の遅れや運動の遅れが出てくるため、言語療法、作業療法、理学療法など、個々の状況に合わせて発達支援を行っていきます。
1p36欠失症候群の治療と管理は、患者一人ひとりの状態に合わせてカスタマイズされる必要があり、多職種の専門家による総合的なアプローチが重要です。
定期的な健康診断と継続的なフォローアップにより、患者の健康状態を最適に保つことが目指されます。
平均寿命
1p36欠失症候群の平均寿命に関する具体的な研究データは見つけることができませんでしたが、症状の重症度や合併症の有無によって予後は大きく異なります。
重度の心疾患など生命を脅かす合併症がある患者は寿命が短くなる可能性がありますが、近年の医療の進歩により、適切な医療介入と継続的なケアを受けることで、生命予後が比較的良好に保たれる可能性があります。
1p36欠失症候群の子が生まれる確率
1p36欠失症候群の発生率は新生児約5,000人から10,000人に1人の割合であると推定されています。
発生頻度は高くありませんが、日本には100名以上の1p36欠失症候群の方がいらっしゃいます。
いつ分かる?検査方法
染色体異常は生まれつきのものなので後天的になることはありませんが、1p36欠失症候群群の診断は生まれる前に行われる場合と生まれた後に行われる場合があります。
どちらも遺伝学的検査によって染色体の分析を行います。
出生前診断
妊娠中に胎児の病気や障害について調べる検査を「出生前診断」といい、広義には妊婦健診で行うエコー検査も含まれます。
1p36欠失症候群を調べるために出生前診断を受けることはほとんどないと思いますが、ダウン症などを調べる「NIPT(新型出生前診断)」を受けた結果、思わず発覚することがあります。
NIPTを実施している施設では基本的に1p36欠失症候群は調べませんが、一部の「微小欠失症検査」を行っている検査施設では検査対象疾患となっています。
DNAサイエンスでは1p36欠失症候群も検査対象疾患です。
生まれた後の検査
生まれたときに心疾患や特徴的な顔立ち、筋緊張低下など1p36欠失症候群の特徴的な症状がある場合や、そこまで分からなくとも何らかの染色体異常が疑われる場合、染色体検査を行います。
出生前診断で1p36欠失症候群と分かったら?
出生前診断で染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論が尽きず、1p36欠失症候群に関しても心身ともにさまざまな異常が発生するため、同様の問題が伴います。
出生前診断では生まれた後の障害の程度までは分かりませんが、生まれる前に1p36欠失症候群が明らかになることで、適切な分娩環境を整えたり、出生後に起こり得る問題について早期に計画を立てることが可能になります。
1p36欠失症候群では知的障害や行動異常などが起こる可能性が高いですが、すべての人は後天的に病気や障害を負う可能性を持っており、このことも考慮する必要があるのではないでしょうか。
一方で長期的なケアが必要になるため、将来に対する不安が生じることも理解できます。
そのため、適切なサポートを受けることが重要です。
染色体の疾患については、遺伝医学に関する専門家である臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けて、現状を正しく理解し取れる選択肢を知ったうえで自己決定することが大切です。
まとめ
1p36欠失症候群は、重度の発達の遅れ、行動異常、心臓疾患、てんかん発作などの多岐にわたる症状を特徴とする染色体異常であり、その治療と管理は患者とその家族にとって生涯にわたる課題です。
治療は症状の管理と生活の質の向上を目指し、多職種の専門家による包括的な支援が必要です。
原因そのものに対する治療法はありませんが、早くから治療や各種リハビリを行うことで自分でできることの幅が広がる可能性があります。
生まれる前の出生前診断で1p36欠失症候群だと分かった場合、どのような疾患か分からず不安になるでしょうが、早い段階で発覚したからこそできる対応もあります。
【参考サイト】