ディジョージ症候群は染色体異常の一つで、生涯にわたる継続的な治療やサポートを必要とすることから、小児慢性特定疾病として認定されています。
免疫不全による易感染性、先天性心疾患、副甲状腺機能低下症、発達遅滞などさまざまな合併症をきたします。
本コラムではディジョージ症候群の特徴や原因、診断方法などについてわかりやすく解説いたします。
ディジョージ症候群の特徴と症状
ディジョージ症候群(DiGeorge症候群)は22番染色体の非常に小さな領域の異常によって生じる難病です。
この疾患は多岐にわたる症状を伴い、特に心臓、免疫系、発達に影響を及ぼします。
【ディジョージ症候群の主な症状】
- 免疫不全
- 先天性心疾患
- 低カルシウム血症
- 発達遅滞
- 特徴的顔貌
免疫不全
胸腺の低形成による免疫不全状態となり、感染症に対しての抵抗力が非常に弱くなります。
胸腺は免疫系の重要な器官であり、特にT細胞と呼ばれる免疫細胞の成熟に関与しています。
胸腺が十分に発達しないと、T細胞の数が減少し、正常な免疫反応ができなくなります。
これにより、感染症に対する抵抗力が低下し、さまざまな感染症にかかりやすくなります。
心臓の異常
患者の約75%に先天性心疾患が見られます。
特に、ファロー四徴症や大動脈弓離断といった特定の心疾患が多く認められます。
ファロー四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右心室肥大の4つの特徴を持つ疾患で、血液の酸素供給に問題を引き起こし、体の各組織や臓器が必要な酸素を十分に受け取れなくなります。
具体的には、チアノーゼ(皮膚や唇が青紫色になる状態)、疲れやすい、呼吸困難、心不全などの症状を引き起こします。
ファロー四徴症の患者の15%がディジョージ症候群です。
低カルシウム血症
副甲状腺低形成(正常に発達せず、機能やサイズが不十分)によって低カルシウム血症やテタニー(筋肉のけいれん)を引き起こすことがあります。
副甲状腺は体内のカルシウムバランスを調整する役割を持っており、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌します。
ディジョージ症候群では、この副甲状腺の機能が低下するため、PTHの分泌が不足し、血液中のカルシウム濃度が低下します。
低カルシウム血症が起こると、筋肉や神経の正常な機能が障害されます。
これにより、筋肉が不随意に収縮するテタニー(筋肉のけいれんや痙攣)が発生します。
特に手や足の筋肉に影響が現れやすく、重症の場合は呼吸困難や心臓のリズム異常を引き起こすこともあります。
発達遅滞
精神発達や言語発達、身体的発達の遅れが見られることがあります。
筋力や運動能力の発達が遅れ、はいはいや座る、立つといった基本的な運動スキルの習得が遅くなることが多くあります。
言葉の理解や発話が遅れ、コミュニケーションに影響が起こりやすくなります。
自閉症スペクトラム障害を併発しやすく、行動障害や情緒障害、学習障害が発生しやすくなります。
顔貌の特徴
ディジョージ症候群の患者には、特徴的な顔貌がよく見られます。
これらの顔貌特徴には、以下のようなものがあります。
【ディジョージ症候群の特徴的顔貌】
- 口蓋裂
- 低位耳介、小耳介
- 瞼裂短縮を伴う眼角隔離症(目と目の間隔が広い)
- 短い人中(鼻の下から口の間)
- 小さな口
- 小顎症(あごが小さくて引っ込んでいる)
ディジョージ症候群の原因と遺伝
ディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群)は染色体異常によって起こる、先天性の病気です。
ヒトの染色体は23対(46本)あり、そのうち22対の常染色体は長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
ディジョージ症候群は、22番染色体の長腕(q)のごくわずかな特定領域が欠失していることが原因で起こります。
この部分の欠失が多くの遺伝子の機能に影響を与え、症状を引き起こします。
遺伝のメカニズム
染色体異常の多くのケースでは新生突然変異として発生し、この場合、両親には症候群の遺伝子異常は見られず、子どもにだけ発症します。
もし親のどちらかがディジョージ症候群の遺伝子変異を持っている場合、その親から子どもに遺伝する確率は50%です。
発症確率
ディジョージ症候群の発生率は新生児約4,000人から5,000人に1人の割合であると推定されています。
ディジョージ症候群の寿命
ディジョージ症候群の平均寿命に関する具体的な研究データは見つけることができませんでしたが、症状の重さや適切な医療管理の有無によって異なります。
特に死因の9割を占める心疾患の管理が非常に重要で、心臓手術や適切な治療を受けることで寿命を延ばすことが可能です。
治療と管理
ディジョージ症候群の原因である染色体異常そのものを治療する方法はないため、症状の管理と生活の質の向上を目的として治療を行っていきます。
これには症状に応じた多岐にわたるアプローチが必要です。
先天性心疾患に対しては外科手術や薬物療法を行います。
低カルシウム血症に対してはカルシウムとビタミンDの補充を行います。
免疫不全については感染症に対する予防措置が必要で、これには定期的な予防接種も含まれます。
重度の免疫不全が認められる場合には、胸腺移植が考慮されることもあります。
発達遅延に対しては、言語療法、理学療法、作業療法などのリハビリテーションを行い、学習支援や専門家の継続的なサポートを行います。
診断方法
ディジョージ症候群の診断は、胎児期に行う場合と出生後に行う場合があります。
出生後は特徴的な症状や顔貌などの存在によって疾患が疑われた場合、臨床症状の有無と遺伝子検査によって診断します。
エコー検査とその役割
エコー検査(超音波検査)は、胎児の心臓やその他臓器など、見た目で分かる異常を検出するために使用されます。
特に心臓の構造異常や発育状態を評価するのに役立ちます。
医師は超音波を使って胎児の画像をリアルタイムで観察し、異常があればさらなる検査や専門医の診断を勧めます。
これにより、必要な治療や介入を早期に計画することができます。
羊水検査の重要性
羊水検査は、胎児の遺伝的異常を診断するための検査です。
妊娠15週から18週の間に行われ、羊水を採取して染色体分析を行います。
この検査は流産リスクが伴いますが、確定診断を提供するため、他の検査結果が不明確な場合や高リスクの妊娠において重要な役割を果たします。
診断が確定すると、出産前の計画や準備がより具体的に行えます。
NIPT(新型出生前診断)
NIPT(新型出生前診断)は、非侵襲的な方法で胎児の遺伝的異常を検出する検査です。
母親の血液中に存在する胎児のDNAを分析することで、ディジョージ症候群を含む染色体異常を高精度で検出します。(検査項目については各社異なる)
この検査は妊娠10週以降に行うことができ、安全で流産リスクがないのが特徴です。
NIPTはディジョージ症候群の早期発見に役立ち、確定診断が必要な場合は追加の検査(例えば羊水検査)を行うための判断材料となります。
まとめ
ディジョージ症候群は、免疫不全、心疾患、低カルシウム血症、発達遅滞などの多岐にわたる症状を特徴とする染色体異常であり、その治療と管理は患者とその家族にとって生涯にわたる課題です。
治療は症状の管理と生活の質の向上を目指し、多職種の専門家による包括的な支援が必要です。
原因そのものに対する治療法はありませんが、早くから治療や各種リハビリを行うことで自分でできることの幅が広がる可能性があります。
生まれる前の出生前診断でディジョージ症候群だと分かった場合、どのような疾患か分からず不安になるでしょうが、早い段階で発覚したからこそできる対応もあります。
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