出生前診断を受けるか迷うとき、遺伝カウンセリングというものがあります。
出生前診断(しゅっしょうまえしんだん・しゅっせいぜんしんだん)とは、お腹の赤ちゃんについて病気や障がいがないか調べる検査のことです。
簡単に受けられるものもある半面、受けた結果重い決断を迫られることもあります。
ほとんどの方は、妊娠が判明してから出生前診断を考えるのではないかと思います。
妊娠発覚から出生前診断を受けられる期間は限られており、思った以上に時間はありません。
また、親や友達など身近な方に相談をして、色々な意見があり余計に混乱したという人もいます。
ここでは、遺伝カウンセリングとは何か?ということから、その内容やカウンセリングを受ける前に考えることのポイントなどについてご紹介していきます。
遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングとは、クライエント(妊婦さんとパートナーやご家族)の遺伝に関する悩みや不安、疑問に思うことを気持ちに寄り添いながら共有し、正確で最新の情報を分かりやすく提供するとともに、クライエント自身が置かれている状況を理解し受け止め、「自己決定」できるよう支援するものです。
遺伝カウンセリングは、一方的な指導やカウンセラーが好ましいと思う方向へ誘導するものではなく、あくまでクライエントの意思を尊重しながら自律的な決断を援助する医療行為です。
遺伝カウンセリングにおける情報の提供は、遺伝性疾患に関するものや検査内容だけではなく、遺伝性疾患に対する理解や社会的な支援体制、倫理的な問題まで含み、クライエントが間違った情報や無知による偏った決断をしてしまわないよう広域にわたってサポートする情報を含んでいます。
何が分かるのか?
遺伝カウンセリングには、出生前診断のように妊娠中や妊娠を考える時期に実施される場合の他に、小児期や成人期に行われるものなどもあります。
出生前診断における遺伝カウンセリングの特徴としては、まだ赤ちゃんが生まれていない、特に人工妊娠中絶が可能な時期であるということが挙げられます。
出生前診断の本来の目的は、赤ちゃんが生まれる前に疾患を診断し、適切な分娩方法の選択、生まれてからの治療や養育環境の準備のために行われるものです。
しかし、疾患を持つ人の出生の排除につながる懸念や、障がいを持っている方の否定につながりかねないなどの倫理的な問題もあるため、個人の価値観や倫理観、生活環境や人生設計などに基づいて慎重に対応する必要があります。
遺伝カウンセリングの目的は、「妊婦さんやそのパートナーの不安や心配事を明確にし、一緒にその問題の解決を図ること」です。
遺伝カウンセリングを受けたからと言って必ず出生前診断を受けなければいけないわけではなく、やっぱり必要ないなと判断すればもちろん止めることもできます。
出生前診断にはいくつかの種類があり、その中には結果がはっきりとは分からず確率で出るものもあり、解釈の仕方が難しいのも特徴の一つです。
また、妊娠発覚から出生前診断を受けられる期間には限りがあるため、時間的な制約がある中で決断しなければなりません。
出生前診断については「コラム:出生前診断ってなに?」もご参考にしてください。
遺伝カウンセリングの主な内容
出生前診断における遺伝カウンセリングは、主に次のような内容で行われます。
- クライエント(カウンセリングを受ける人)の必要な情報収集
受検を検討する目的
既往歴
家族の状況
特には家系図 など - 検査の内容やその限界、倫理的な問題などについて
- 染色体異常など対象疾患の起こる割合や病態、サポート体制などについて
- 質疑応答
遺伝カウンセリングとは、単に検査についての説明や質疑応答のみではなく、検査を受けることや受けないことが妊婦さんやそのご家族にとってどのような意味を持つかを受け止め理解し、前に進んでいくための支援をするものです。
悩みや不安に思う事は千差万別ですので、遺伝カウンセリングの内容もクライエントの要望や理解度などによって変わってきます。
胎児におこる染色体異常についてはこちらのコラムもご参考にしてください。
遺伝カウンセラー
遺伝カウンセリングを行うのは、次のような遺伝医療の専門家です。
- 臨床遺伝専門医
- 認定遺伝カウンセラー
- 遺伝看護専門看護師
*臨床遺伝専門医*
臨床遺伝専門医は医師であり、遺伝医学について十分な専門知識を持ち、専門的検査や診断、治療を行うことができます。
*認定遺伝カウンセラー*
認定遺伝カウンセラー®は最新の遺伝医学の知識や専門的なカウンセリング技術を持ち、主治医やその他医療者と連携しクライエントを援助するとともに、クライエントの権利を守る専門家のことです。
*遺伝看護専門看護師*
専門看護師とは、特定の分野の知識や技術を深めた専門職であり、遺伝看護専門看護師は2017年から認定開始されました。
遺伝看護専門看護師は、対象者の遺伝的課題を見極め、診断・予防・治療に伴う意思決定支援とQOL向上を目指した生涯にわたる療養生活支援を行い、世代を超えて必要な医療・ケアを受けることができる体制の構築とゲノム医療の発展に貢献する専門職です。
実施施設
遺伝カウンセリングを受けられる施設は全国にありますが、どこでも受けられるわけではありません。
上記のような、遺伝医学に関する資格を持つ専門家がまだそれほど多くないため、主に大学病院などの総合病院がメインになります。
出生前診断を検討している場合は、実施施設へ相談してみると良いでしょう。
もしご自身で探したいという場合は、「登録機関遺伝子医療体制検索システム / 全国遺伝子医療部門連絡会議(外部サイトへ移動します)」から調べることもできます。
その他、新型出生前診断を行なっている一部の民間企業では、独自でオンライン遺伝カウンセリングを行なっている場合もあります。
出生前診断を希望する妊婦さんが増えている今、さらなる体制の整備が課題となっています。
費用と所要時間
遺伝カウンセリングの費用と所要時間はどれくらいかかるのでしょうか。
実施施設によって異なりますが、1回の遺伝カウンセリングで5,000円~10,000円かかる場合が多いようです。
ほとんどは保険適用外の自由診療となり、初診料などが別途かかる場合もあります。
その他検査費用がかかりますが、検査費用に遺伝カウンセリング費用が含まれている場合もありますので、詳しくは実施施設に問い合わせてみてください。
遺伝カウンセリングの所要時間もさまざまですが、1回につき30分~1時間と設定している場合が多いようです。
時間を有効に使えるよう、不安なことや伝えなければいけない情報は紙に書き出しておくとよいでしょう。
遺伝カウンセリングの前に考えるポイント
遺伝カウンセリングは限られた時間の中で行われます。
遺伝カウンセリングを受ける前に、まずは次のことについてあなたとパートナーで話し合ってみてください。
- 出生前診断を受ける目的は何か
- 検査を受けるメリットとデメリットは何か
- 検査対象となる疾患とその症状や予後、サポート体制についてどこまで知っているか
- 望まない検査結果だった場合、どのような選択がありどのように行動したいのか
まずは自分たちなりの考えを持つことが大切です。
分からないことや不安に思うことは書き出しておきましょう。
遺伝カウンセリングでは、あなたたちの気持ちに寄り添いながら足りない知識を補ってくれて、新しい視点や可能性を見出してくれるかもしれません。
出生前診断において、これが正しい選択というのはありません。
大切なのは、正しい情報の元であなたたちが自由に意思決定を行うということです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
出生前診断に対する最終的な意思決定は本人たちによるものですが、その決断には取り巻く人間関係や置かれた社会的状況などさまざまな事柄が関係してきます。
遺伝カウンセリングとは、単なる情報提供のみではなく、個人の価値観を尊重しながら「支持的で非指示的」に行われます。
不安に思うことは抱え込まずに、まずは相談してみてくださいね。