晩婚化とともに高齢出産が増え、出生前診断への関心が高まり、検査実施数も年々増えています。
出生前診断とひとくちに言っても、検査の種類や実施期間、検査で分かることなどそれぞれ特徴が異なります。
出生前診断を受ければ先天性の病気はすべて分かるのでしょうか?
また、出生前診断は中絶につながるとして「命の選別」だという意見もありますが、検査を受けることに問題はないのでしょうか?
ここではそんな疑問とともに、それぞれの出生前診断の検査精度や費用などについても解説していきます。
出生前診断とは
出生前診断とは、妊娠中におなかの赤ちゃんについて何らかの先天性の病気がないかを調べる検査のことです。
出生前診断は「しゅっせいぜんしんだん」「しゅっしょうまえしんだん」などと読みます。
すべての先天性(生まれつき)の病気が分かるわけではなく、いくつか種類がある出生前診断ではそれぞれ対象としている疾患や得意不得意に違いがあります。
広い意味での出生前診断には妊婦健診で受けるエコー検査やNTなども含まれますが、よくメディアなどで取り上げられている出生前診断というのは、主に胎児の染色体異常を調べる検査のことをさします。
生まれてくる赤ちゃんのうち、先天性の病気がある割合は100人に3~5人程度です。
染色体異常は先天性の病気のうちおよそ4分の1程度にしか過ぎません。
そのため出生前診断では調べることができず生まれてから判明する病気も少なくないことは理解しておく必要があります。
【生まれてくる赤ちゃんに先天性疾患がおこる割合】
分かること
出生前診断では、四肢の状態や口唇裂・口蓋裂といった見た目で分かる「形態異常」を調べる検査と、ダウン症などの「染色体異常」を調べる検査があります。
エコー検査では見た目で分かる変化の「形態異常」を調べます。
NT値と呼ばれる値で、ダウン症などの可能性を調べることができますが、確率が高いわけではありません。
「染色体異常」を調べる検査には、「コンバインド検査」「母体血清マーカー検査」「新型出生前診断(NIPT)」「羊水検査」「絨毛検査」などがあります。
検査の結果なにかしらの問題が見つかったとき、治療につなげられるものとそうでないものがあります。
心臓の病気など、手術で治療できる場合があります。
一方染色体異常については根本的な治療法はなく、例えば言葉の遅れがある場合は言語療法を行うなど、その症状や合併症について治療を行っていきます。
また、出生前診断を受けたからといってすべての先天性の病気が分かるわけではなく、さらに病気や障がいについては生まれてからも常にそのリスクは付きまとっています。
出生前診断を受ける大きな理由の一つに、「胎児に染色体異常がないか調べたい」ということだと思います。
ところで、染色体異常についてどのくらいご存知でしょうか?
染色体異常とは
染色体異常とは、遺伝情報を記録している染色体の数が増減したり形が変わる異常があるために起こる病気のことです。
ヒトの染色体は23対(46本)あり、1~22番までを「常染色体」、23番を男女の性別を決める「性染色体」といいます。
通常は2本で1組のはずの染色体が3本になる状態を「トリソミー」といいます。
ダウン症は「21トリソミー」ともいい、これは21番目の染色体が3本になった状態のことです。
染色体異常はどの番号の染色体にも起こり得ますが、その多くは流産や死産となってしまいます。
その中でも無事生まれる可能性が比較的高いダウン症(21トリソミー)や、18トリソミー、13トリソミーなどが主に出生前診断の検査対象とされています。
染色体異常は根本的な治療法はありませんが、心臓や消化管などに異常がある場合は手術をしたり、言葉の遅れがある場合は言語療法をするなど、その症状や合併症について治療を行っていきます。
種類と特徴
出生前診断には、スクリーニング検査として異常があるかどうかの可能性を調べる「非確定検査」と、確実に診断ができる「確定検査」があります。
確定検査である「羊水検査」「絨毛検査」は、流産のリスクが0.3~1%程度あることから、一般的に特定の遺伝子疾患がある場合などを除いて「非確定検査」を受けた結果、異常がある可能性が高い場合に確定検査を受けます。
それぞれの出生前診断は、検査内容や対象疾患、検査時期に違いがあります。
【出生前診断の種類と特徴】
コンバインド 検査 | 母体血清マーカー検査 | 新型出生前診断(NIPT) | 絨毛検査 | 羊水検査 | |
---|---|---|---|---|---|
検査の種類 | 非確定検査 | 非確定検査 | 非確定検査 | 確定検査 | 確定検査 |
実施時期 | 11~13週 | 15~18週 | 10~16週 | 11~14週 | 15~18週 |
対象疾患 | ダウン症 18トリソミー | ダウン症 18トリソミー 開放性二分脊椎 | ダウン症 18トリソミー 13トリソミー その他染色体異常 | 染色体異常全般 | 染色体異常全般 |
検査精度 | ダウン症で80%程度 | ダウン症で80%程度 | ダウン症で99.1% | 100% | 100% |
検査方法 | 母体からの採血+超音波検査(NT計測) | 母体からの採血 | 母体からの採血 | 絨毛の採取 | 羊水の採取 |
特徴 | 母体年齢も考慮してリスクを算出する、妊娠初期に検査ができる | 結果は確率で出る | 検査精度は高いが確定診断ではない、妊娠初期から検査ができる | 妊娠初期に検査ができる、診断が確定できる、侵襲的である | 診断が確定できる、侵襲的である |
限界 | 偽陽性率が5%程度と高い | 偽陽性率が5%程度と高い | 陽性の場合でも確定検査が必要 | 流産リスクが約1% | 流産リスクが約0.3% |
費用 | 5万円程度 | 2~3万円 | 15~25万円 | 15~20万円 | 15~20万円 |
【出生前診断が受けられる時期】
非確定検査
任意のスクリーニング検査として行われるのが非確定検査です。
スクリーニング検査とは、対象となる集団の中から特定の病気の疑いのある人を発見することを目的としています。
メリットとしては、特定の病気の疑いがあるか?を妊娠の早い段階で知ることができる点ですが、非確定検査の中には検査精度が高いものもあるとはいえ、「病気の疑いがあり」との判定でも、実際には何の問題もなかった、ということもあり、不安を煽る可能性もあります。
また、検査結果が確率で出るものもあり、結果を適切に理解できなければかえって混乱する可能性もあります。
エコー検査は通常の妊婦健診で行われますが、それ以外の出生前診断は受けるのも受けないのも自由です。
検査を受ける目的や、もし異常が判明した場合どうするのかなどをパートナーとよく話し合ったうえで検査を受ける必要があります。
エコー検査(胎児超音波検査)
エコー検査(胎児超音波検査)は、白黒の画像で赤ちゃんの姿を確認しているあれですが、出生前診断だと思っていない方が多いのではないでしょうか。
エコー検査は、妊娠初期では「プローブ」と呼ばれる棒のようなものを膣から入れてお腹の赤ちゃんを近距離から確認、12週以降は妊婦さんのお腹に超音波をあてて、お腹の中の赤ちゃんを画像で見ることができます。
最近では3Dや4Dでより鮮明な画像を、DVDにしてくれる施設もあるようです。
思い出に残って嬉しいですね。
検査を受ける病産院によって内容は多少異なりますが、妊婦健診で受けるエコー検査では正常な妊娠かどうか、主に次のことを調べています。
【エコー検査で調べる内容】
- 赤ちゃんが生きているか(心拍の確認)
- 見た目で分かる異常・奇形がないか(内臓や四肢)
- 発育が順調か(小さすぎないかなど)
- 胎盤やさい帯、羊水に問題がないか
妊婦健診での超音波検査は、妊娠中の全期間を通して行われる基本となる検査です。
妊娠中の気になることの一つはお腹の赤ちゃんの性別だと思いますが、だいたい妊娠16週頃から分かることもあります。
ただし、赤ちゃんの姿勢によって判断が難しく間違うこともありますので、期待し過ぎないようにしましょう。
胎児のうなじの浮腫(むくみ)の厚さを測定することによってダウン症などの可能性を調べる検査をNT(エヌティ―)といいます。
NTの測定には熟練の技術と知識を要求されるため、かならずしも妊婦健診で行われるわけではなく施設によって異なります。
NTを含め、通常の妊婦健診より詳しくより精密に見る検査を「胎児ドック」などとして行なっている施設もあります。
母体血清マーカー検査(クアトロテスト)
母体血清マーカー検査とは、母体からの採血と母体年齢から、お腹の赤ちゃんの染色体異常(ダウン症、18トリソミー)や開放性神経管奇形の可能性を確率で算出する検査です。
母体の血液中に含まれる4つの成分を測定する検査を「クアトロテスト™」
母体の血液中に含まれる3つの成分を測定する検査を「トリプルマーカー検査」といいます。
開放性神経管奇形とは、神経管が正しく発達せず、脳や脊髄、髄膜に異常が起きてしまう先天異常です。
開放性神経管奇形によって、無脳症や水頭症、二分脊椎などが起こる可能性があります。
母体血清マーカー検査は、妊娠中期である妊娠15週~18週ころに行われます。
検査結果は「異常がある可能性が295分の1」など確率で出ますが、高い確率が出ても確定検査で調べたら問題なかった、ということも少なくありません。
どのくらいの確率が出たら確定検査を受けるか?受けないか?を事前に考えておかないと思わぬ結果の場合混乱してしまうかもしれません。
感度(異常の疑いがあり、実際に異常がある)は75~80%ですが、偽陽性率(異常の疑いがあったが、実際には問題なし)が5%程度と高いため、母体血清マーカー検査の結果のみで中絶を考えることは避けねばなりません。
費用は施設によりますが、2~3万円程度です。
コンバインド検査
コンバインド検査とは、母体からの採血とエコー検査(超音波検査)を組み合わせてより検査精度を上げたものです。
エコー検査によるNT(胎児後頸部浮腫)測定により、胎児の染色体異常の可能性を調べることができます。
NT(ヌーカル・トランスルーセンシー)とは、胎児のうなじの部分にみられる透明帯の厚さを測定することで、染色体異常の可能性を調べる検査のことです。
一般的に「胎児のうなじのむくみを調べる」と表現されています。
一定以上の厚さがあると染色体異常の可能性があり、厚みがあるほどその可能性は高くなりますが、正常な胎児でも厚みがあることもあり、あくまで可能性です。
NT肥厚により評価ができる染色体異常は、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー、性染色体異常であるターナー症候群などがあり、そのほか心奇形などの奇形も関与します。
妊娠初期である妊娠11週~13週頃に行われます。
費用はおよそ5万円程度です。
新型出生前診断(NIPT)
新型出生前診断(NIPT)とは、母体からの採血でおなかの赤ちゃんに染色体異常の可能性があるかどうかを調べる検査のことです。
妊娠中のママの血液中には、おなかの赤ちゃんの胎盤に由来するDNAが存在するため、このDNAを解析します。
対象疾患は基本的にダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーの3種類ですが、検査施設によっては性染色体を含むすべての染色体の数の異常や、微小欠失症と呼ばれる染色体の小さな部分の異常について調べることができます。
他の非確定検査と比べて陽性的中率、とくに陰性的中率が高いことが特徴ですが、非確定検査であるということに注意が必要です。
検査の結果「陽性」の場合は羊水検査を受ける必要があります。
妊娠初期である妊娠10週頃から検査可能であり、妊娠16週頃まで行われます。
新型出生前診断(NIPT)の検査施設には、日本産科婦人科学会が認定している「認可施設」とそれ以外のいわゆる「無認可施設」があります。
「認可施設」では、以下のような様々な条件を満たす必要があります。
【「認可施設」で新型出生前診断(NIPT)を受けられる妊婦さんの条件】
- 35歳以上である
- 染色体異常の児を妊娠・出産したことがある
- 児が染色体異常である可能性が高い
「無認可施設」では基本的に上記のような条件は無く、無認可だからといって違法ではありませんが、施設によってはフォロー体制が整っていないなどの問題がありますので、口コミなどの評価も参考にして調べた方がよいでしょう。
検査費用は15万~25万円程度です。
確定検査
確定検査には「羊水検査」と「絨毛検査」があり、対象となる疾患について確実に診断ができます。
どちらの検査も母体のおなかもしくは膣から針を刺しますので、破水や出血、子宮内感染のほか流産の可能性がゼロではありません。
そのため、確定検査を受ける前に非確定検査を受け、何らかの異常の可能性がある場合に確定検査を受けるのが一般的です。
確定検査では、染色体異常と一部の遺伝子の病気について調べることができますが、先天性疾患のすべてを検査できるわけではないということに注意が必要です。
羊水検査
羊水検査は、妊婦さんのお腹から子宮壁に針を刺して羊水を採取します。
羊水とは、赤ちゃんをつつんでいる羊膜の中を満たしている液体のことで、羊水中には赤ちゃんに由来する細胞が浮遊しています。
羊水検査では、その細胞を培養して解析することで、赤ちゃんの染色体診断・遺伝子診断を行います。
羊水検査は50年くらいの歴史のある検査で、日本では現在でも年間約2万件程度行われています。
胎児の染色体異常をほぼ100%の確率で判定できることから、NIPTやクアトロテストなどで陽性になったときの確定検査として用いられます。
羊水検査は確定診断であるため、対象疾患の有無が確実に分かります。
しかし、子宮壁に針を刺すため出血や破水、感染症などの合併症のリスクがあり、流産や胎児死亡は300~500人に1人くらいの頻度で起こるといわれています。
羊水検査は妊娠16週頃に行われることが一般的です。
羊水細胞の培養に時間がかかるため、結果が出るまでに2週間程度かかります。
まれに、「モザイク」と呼ばれる正常な細胞と変化のある細胞が混ざっている場合や、染色体の変化がごくわずかなために、それらの変化を検出できないことがあります。
羊水検査では染色体異常の全般を調べることができますが、もし染色体異常があると分かっても、障がいの有無や程度までは分かりません。
検査費用は15~20万円程度です。
絨毛検査
絨毛検査(じゅうもうけんさ)とは、のちに胎盤となる細胞・組織である絨毛を採取し解析することで赤ちゃんの染色体診断・遺伝子診断を行います。
妊婦さんのお腹から針を刺して採取する方法が一般的ですが、膣から管を入れて採取する方法もあります。
妊娠初期である、妊娠11週~妊娠14週頃に検査ができるメリットがあります。
一方で出血や破水、子宮内感染や、流産のリスクが他の検査と比べると高めで1~2%程度といわれていること、検査を行う人の技術が必要なことから、日本国内で受けられる医療機関は少なめで、年間の実施数も2,000件程度です。
絨毛検査では採取した絨毛細胞の培養に時間がかかるため、結果が出るまでに2週間程度かかります。
羊水検査と同じ確定診断ですが、特定の遺伝子疾患のリスクが高く出来るだけ早く検査を受けたい、という方以外は羊水検査の方が一般的です。
検査費用は15~20万円程度です。
出生前診断を検討する際に考えたいこと
出生前診断は必ずしも受けなくてはならないものではありません。
メディア等で「新型出生前診断(NIPT)は命の選別につながり倫理的問題がある」といった記事を見かけたことがある方もいらっしゃると思いますが、それは他の出生前診断にも当てはまります。
出生前診断とは本来、生まれる前に病気や障がいを発見し安全に出産できる環境を整え、生まれてからの治療や環境づくりにつなげるためのものです。
しかし、出生前診断を受けようとするカップルがさまざまな情報を正しく理解し、生活環境や置かれている社会的状況、人生観や価値観のもとで判断した結果であれば、それが正解なのではないでしょうか。
とはいっても、その重い判断をするために必要な情報は何か?何を基準に考えたら良いのか?不安に思うこともたくさんあると思います。
そのようなときは、「遺伝カウンセリング」で専門家に相談することができます。
遺伝カウンセリングは、専門的知識を持った「臨床遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」によって行われます。
「カウンセリング」と聞くと堅苦しい印象があるかもしれませんが、遺伝カウンセリングの目的は、妊婦さんやパートナーが不安に思うことを明確にし、お二人に寄り添って一緒に問題解決を図るものです。
そのために必要な検査の内容や意味、結果の理解の仕方、妊婦さんやパートナーとそのご家族について遺伝的に心配に思うこと、対象疾患への理解について分かりやすく説明してくれます。
遺伝カウンセリングを受ける前に、次のことをパートナーとよく話し合い二人の考えを整理しておきましょう。
- どうして検査を受けたいのか?(何が不安・心配なのか)
- 対象疾患についてどのように理解をしているか
- 検査を受けることによるメリットとデメリットはなにか
- 万が一望まない結果であったときにどうするのか
遺伝カウンセラーは、お二人のどのような選択も個人の価値観として尊重し、可能な限りサポートしてくれます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
出生前診断ではすべての生まれつきの病気や障がいが分かるわけではなく、また何らかの異常が見つかったとしても、その障がいの程度までは分かりません。
妊娠中に不安を抱えていたくないと思い安心するために受けた検査で、かえって不安が募ってしまったということもあります。
妊婦さんには「知る権利」も「知らずにいる権利」もあります。
出生前診断にはメリットもデメリットもあることをしっかり理解したうえで、納得のできる決断をすることが大切です。