胎児のダウン症などの染色体異常を調べる出生前診断の中で、出産経験のない方でも聞き馴染みがあるのが羊水検査ではないでしょうか。
羊水検査が受けられる妊娠週数は決まっています。
いつ頃受けられるのか、そもそも誰でも検査できるのか?また羊水検査で分かることは何なのか?
今回は羊水検査の特徴と、出生前診断における位置づけについてご紹介いたします。
羊水検査とは
羊水検査とは、妊婦さんのおなかから子宮壁に針を刺して羊水を採取し、胎児の染色体異常の有無を診断する検査のことです。
羊水とは、胎児が入っている羊膜の中を満たしている液体のことで、羊水中には胎児に由来する細胞が浮遊しています。
羊水検査では、その羊水中に浮遊している胎児由来の細胞を培養して解析することで、胎児の染色体診断・遺伝子診断を行います。
羊水検査は50年くらいの歴史のある検査で、日本では現在でも年間約2万件程度行われています。
胎児の染色体異常をほぼ100%の確率で判定できることから、出生前診断の非確定検査である新型出生前診断(NIPT)やクアトロテストなどで陽性になったときの確定診断検査としても用いられます。
なんのための検査?
羊水検査は任意の検査のためすべての妊婦さんが受ける必要はありません。
羊水検査に限らず、出生前診断の目的は「生まれる前に先天性疾患を早期に発見し、安全に出産できる環境を整え、生まれてからの早期治療や環境づくりにつなげるためのもの」です。
しかし、次に挙げるように羊水検査で分かることと分からないことや、合併症などのリスクもありますので、メリットとデメリットをよく理解したうえで検査を受けるか検討する必要があります。
染色体異常とは
染色体異常とは、遺伝情報を記録している染色体の数が増減したり形が変わる異常があるためにおこる病気のことです。
ヒトの染色体は23対(46本)あり、1~22番までを「常染色体」、23番を男女の性別を決める「性染色体」といいます。
通常は2本で1組のはずの染色体が3本になる状態を「トリソミー」といいます。
ダウン症は「21トリソミー」ともいい、これは21番目の染色体が3本になった状態のことです。
染色体異常はどの番号の染色体にも起こり得ますが、その多くは流産や死産となってしまいます。
その中でも無事生まれる可能性が比較的高いダウン症(21トリソミー)や、18トリソミー、13トリソミーなどが主に出生前診断の検査対象とされています。
染色体異常は根本的な治療法はありませんが、心臓や消化管などに異常がある場合は手術をしたり、言葉の遅れがある場合は言語療法をするなど、その症状や合併症について治療を行っていきます。
羊水検査で分かる染色体異常
羊水検査では、染色体異常全般を調べることができます。
染色体異常のうち、染色体の数の変化や構造の変化の多くは調べることができますが、微小欠失などの小さな構造の変化については分からないこともあります。
【一般的な羊水検査でわかる染色体異常】
- 染色体の数の異常・・・
常染色体の数の異常:ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー、その他染色体
性染色体の数の異常:ターナー症候群、クラインフェルター症候群など - 染色体の構造の異常・・・転座、欠失、重複など
羊水検査での分析法にはいくつかの種類がありますが、最も基本となるのはG分析法という検査方法です。
これは、細胞を培養して染色体を分析するため、結果が出るまでに2週間程度かかります。
染色体のごく小さな領域が欠けているなど、小さな構造の変化については検出できません。
迅速検査としてFISH法という検査方法もあります。
この方法では、G分析法で分からなかった微小な構造の変化を分析することが可能です。
特に、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー、性染色体の数の異常について迅速に調べることができます。(2~3日)
FISH法を行った場合でも、最終的な診断はG分析法にて行います。
また、微小な構造の変化についてもすべてがわかるわけではありません。
羊水検査の合併症
羊水検査ではママのおなかを通して子宮壁に針を刺すために出血や破水、感染症などの合併症のリスクがあり、流産や胎児死亡は300~500人に1人くらいの頻度でおこるといわれています。
しかし、羊水検査を実施する時期は何もしていなくても自然流産する可能性もあり、流産の原因を特定することは難しいため、実際には羊水検査による流産や胎児死亡の頻度はもっと低いのではないかともいわれています。
羊水検査を受ける場合は、100%安全な検査ではない、ということを理解しておく必要があります。
羊水検査で分からないこと
羊水検査を受ければ、胎児の先天性疾患はすべて調べることができるのでしょうか?
残念ながら羊水検査でも分からないことがあります。
【羊水検査で分からないこと・検査の限界】
- 結果が出ないことがある
- 検査していない先天性疾患については分からない
- 100%安全な検査ではない
- 異常が見つかっても根本的な治療ができない
●結果が出ないことがある
まれに「モザイク」と呼ばれる正常な細胞と変化のある細胞が混ざっている場合や、染色体の変化がごくわずかなために、結果が出なかったりそれらの変化を検出できないことがあります。
また、採取した羊水中の胎児細胞が少なすぎるために、再検査になることがごくまれにあります。
●検査していない先天性疾患については分からない
生まれてくる赤ちゃんのうち、先天性疾患がある割合は100人に3~5人程度ですが、染色体異常があるのはそのうちの4分の1程度です。
つまり、羊水検査では調べることができず生まれてから判明する病気も少なくありません。
●異常が見つかっても根本的な治療ができない
染色体異常そのものを治療する技術は現在ありません。
また、羊水検査により染色体異常があると分かっても、生まれてからの障がいの有無や程度までは分かりません。
対象となる人
羊水検査はだれでも気軽に受けられるわけではありません。
遺伝学的検査に関するガイドラインによると、出生前診断としての羊水検査の対象となるのは以下のような場合の妊娠で、夫婦からの希望があり、検査の意義について十分な理解が得られた場合に行うとしています。
【出生前診断としての羊水検査の対象となり得る人】
- 夫婦のいずれかが、染色体異常の保因者である場合
- 染色体異常のある児を妊娠、もしくは分娩したことがある場合
- 高齢妊娠の場合
- 妊婦が重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
- 夫婦のいずれかが、重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
- 夫婦のいずれかが、重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
- その他、胎児が重篤な疾患に罹患の可能性がある場合
保因者というのは、染色体異常を持ってはいるものの、その症状があらわれていない人のことをいいます。
エコー検査や母体血清マーカー検査などの非確定検査で、胎児に何らかの異常がある可能性があった場合も羊水検査の対象となります。
検査が受けられる時期
羊水検査には適した検査時期があります。
羊水の量や羊水中の胎児由来細胞数、細胞培養期間や、検査の結果で異常があった場合の対応期間などを考慮して、妊娠15週~遅くても妊娠18週頃までに羊水検査を行うことが一般的です。
妊娠15週より早い時期では、まだ羊水中の胎児由来細胞の数が少ない可能性がありますので、もし何らかの理由で妊娠週数の早い時期に出生前診断の確定検査を受けたい場合は、絨毛検査を行います。
【羊水検査に適した時期】
もし羊水検査の結果で胎児に染色体異常があることが診断され、人工妊娠中絶を行う場合、中絶の手術が可能な期間は母体保護法により「妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)」と定められています。
羊水検査の結果次第では中絶も選択肢にある場合、検査結果が出るまでに2週間程度かかることを考えると、妊娠18週頃までには検査を受ける必要があります。
検査方法
羊水検査は多くは日帰りで行われますが、施設によっては一泊二日とすることもあるようです。
検査はママのおなかを消毒した後、エコー(超音波検査)でおなかの赤ちゃんの状態を確認しながら行います。
ママのおなかの上から細い針を刺して、子宮壁を通して羊水を約20ml採取します。
麻酔はしない場合と局所麻酔を行う場合があります。
羊水検査の針が痛いのではないかと心配されるかもしれませんが、思っていたよりも痛くなかったという人が多いようです。
羊水の採取自体は数十秒で終わります。
羊水の採取後はエコー検査でおなかの赤ちゃんに異常がないかを確認して、その後30分~1時間ほど休み、再びエコー検査で異常がないかを確認できれば帰宅できます。
検査開始から終了までは1時間~3時間程度です。
羊水検査の結果が出るのは、羊水の採取後、細胞の培養に時間がかかるため、約2週間後になります。
羊水検査で染色体異常が分かったら
羊水検査で胎児の染色体異常が確定した場合、避けられないのが「産む(妊娠継続)」か「産まない(人工妊娠中絶)」かの選択です。
出生前診断の目的とは、生まれる前に病気や障がいを発見し安全に出産できる環境を整え、生まれてからの治療や環境づくりにつなげるためのものです。
しかし、出生前診断を受けようとするカップルがさまざまな情報を正しく理解し、生活環境や置かれている社会的状況、人生観や価値観のもとで判断した結果であれば、それが正解なのではないでしょうか。
とはいっても、その重い判断をするために必要な情報は何か?何を基準に考えたら良いのか?不安に思うこともたくさんあると思います。
そのようなときは、「遺伝カウンセリング」で専門家に相談することができます。
遺伝カウンセリングは、専門的知識を持った「臨床遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」によって行われます。
「カウンセリング」と聞くと堅苦しい印象があるかもしれませんが、遺伝カウンセリングの目的は、妊婦さんやパートナーが不安に思うことを明確にし、お二人に寄り添って一緒に問題解決を図るものです。
そのために必要な検査の内容や意味、結果の理解の仕方、妊婦さんやパートナーとそのご家族について遺伝的に心配に思うこと、対象疾患への理解について分かりやすく説明してくれます。
費用
羊水検査の費用は、検査を受ける施設や検査方法などにより異なります。
なお、健康保険の適応はないため、全額自費負担となります。
検査料金に加え、診察料や超音波検査料、薬剤料等が加算されるため、羊水検査にかかる費用は一般的におよそ15万円~20万円程度です。
非確定検査である新型出生前診断(NIPT)を行なっている施設では、NIPTの結果が陽性だった場合、羊水検査費用の全額または一部を補助する場合が一般的です。
羊水検査と絨毛検査の違い
出生前診断の中で羊水検査と同じく診断が確定できる確定診断に「絨毛検査」がありますが、両者はどのように違うのでしょうか?
絨毛検査(じゅうもうけんさ)とは、のちに胎盤となる細胞・組織である絨毛を採取し解析することで赤ちゃんの染色体診断をおこなう検査のことです。
【羊水検査と絨毛検査の比較】
大きな違いとしては、実施時期の違いが挙げられます。
絨毛検査の方が検査を受けられる妊娠週数が早く、妊娠初期である妊娠11週~14週頃に行います。
どちらも針を刺すため、出血や破水、子宮内感染などのリスクがあります。
検査による流産の可能性が羊水検査は約0.3%程度ですが、絨毛検査は約1%程度といわれています。
また、絨毛検査は検査を行う人の技術が必要なことから、日本国内で受けられる医療機関は限られており、年間の実施数も2,000件程度です。
胎児に染色体異常がある可能性が高いなど何らかの事情がなければ羊水検査を受けることが一般的です。
まとめ
羊水検査を含め、出生前診断は必ずしも受けなくてはならないものではありません。
出生前診断ではすべての生まれつきの病気や障がいが分かるわけではなく、また何らかの異常が見つかったとしても、その障がいの程度までは分かりません。
メリットやデメリットをしっかりと理解したうえで、これで良かったと思える決断ができることが大切です。