
13トリソミーとは、染色体異常によって起こる疾患のことです。
あまり聞きなれない方が多いのではないかと思いますが、染色体異常症の中ではダウン症、18トリソミーについで頻度が高いのがこの13トリソミーです。
いったいどのような疾患なのか、その特徴や原因などとともに、出生前診断に関することや遺伝するのか?といった内容も含めて基本的な情報をご紹介いたします。
13トリソミー(パトウ症候群)とは
13トリソミーとは、パトウ症候群(パト―症候群)ともいい、遺伝情報がつまった染色体の異常によって起こります。
13トリソミーは合併症の症状が重く、運動面や精神面での強い発達の遅れがみられます。
13トリソミーは口唇口蓋裂や多指、小球眼や頭皮欠損などの多くの見た目の合併症がおこる割合が高く、心疾患や脳疾患など多くの疾患を合併していることが多い為、無事に生まれても1歳まで生きられる確率は10%にも満たないと言われています。
パトウ症候群という名称は、1960年に疾患の特徴を初めて報告したドイツ出身のKalius Patau医師の名にちなんでつけられました。
特徴
13トリソミーではほとんどの場合症状が重く、脳疾患による重度の知的障害と、呼吸器系、消化器系、中枢神経系、泌尿器系、骨格系など多岐にわたる疾患、顔や指の奇形などがみられます。
言葉の使用は難しいですが、表情や簡単なサインでのコミュニケーションができることもあります。
ただし、これらの症状が個人差が大きく、すべてが見られるわけではありません。
特有の顔つきと見た目の特徴
13トリソミーでは、「全前脳胞症」がよくみられ、顔に多くの異常が発生します。
全前脳胞症とは、脳が発生する過程がうまくいかなかったことで、以下のように顔の中心部の形成障害がおこる疾病のことです。
- 唇の一部や上あごが避けている「口唇口蓋裂」
- 両目が近い、小さい、無眼球、単眼などの目の異常
- 鼻がない、位置や形の異常
- 耳の位置が低い、変形している
その他13トリソミーでは以下の症状がみられます。
- 脳や頭皮の奇形
- 頭が小さい「小頭症」
指の数が多い「多指症」や指がくっついている場合もあります。

足の裏が内側を向いている「内反足」がみられることもあります。

症状と合併症
13トリソミーは様々な合併症をともない、重篤であることも珍しくありません。
特に多いのは心疾患で、80%異常にみられます。
脳、目、顔に重大な異常があることが多く、
脳疾患
視覚障害
難聴
などがみられます。
呼吸器系の疾患により、生まれてすぐに呼吸補助が必要になることがあります。
発達と療育
13トリソミーは運動面・精神面で強い発達の遅れを示します。
言葉の使用は難しく、呼吸補助が必要な場合がほとんどですが、笑顔などで感情を表現できることもあります。
13トリソミーは、筋肉の発達が良くないため小さく生まれ、その後も体格は小さく、成長が極めてゆっくりです。
比較的重い知的障害もよくみられます。
しかしこれは個人差があり、すべてがすべての人にあらわれるわけではありません。
13トリソミーの生命予後は極めて良くないといわれ、生まれた直後から集中治療が必要な場合もあります。
13トリソミーは先天性心疾患があることが多く、心臓血管手術も含めた治療により生命予後が改善する例が増えてきているようです。
重度の障がいと成長障害がある場合、治療方針に沿ってその都度必要な対応をすることはもちろん、赤ちゃんの家族にたいしてのケアも重要になってきます。
13トリソミーのモザイク型の場合、合併症が少なく発育が良好なケースもあります。
原因

13トリソミーは染色体異常の一つです。
染色体とは、遺伝子を含むDNAが、折り重なってできたものです。
ヒトの身体は約37兆個もの細胞からできており、特定の細胞を除くほとんどすべての細胞には23対(46本)の染色体があります。
染色体は両親から1本ずつもらったものがペアになっており、ヒトの染色体23対のうち、1~22番までの22対を「常染色体」、23番目の1対は男女の性別を決める「性染色体」とよびます。
常染色体は基本的に長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
そのうちの13番染色体が、通常2本のはずのところ3本になった状態が13トリソミーです。
(トリは3を意味します)
この現象はほとんどの場合遺伝ではなくたまたま起こり、どんな人にも起こりうることです。
13トリソミーは染色体の構造の違いによって、次のような型に分けられます。
標準型(フルトリソミー)
13トリソミーで一番多いのがこの標準型で、13トリソミーの約75%を占めます。
通常は父と母由来のそれぞれ1本ずつがペアになっている染色体ですが、どちらかよりさらにもう1本もらって3本になった状態です。
標準型のほとんどは母親の卵子が作られる過程のエラーにより起こります。
これは母親の年齢が高くなるほど起こりやすくなります。
加齢により起こりやすくはなりますが、誰にでもその可能性はあり、ほとんどの場合遺伝ではありません。
転座型

13トリソミーの約20%がこの転座型です。
2つ以上の染色体が部分的に入れ替わった状態です。
モザイク型
13トリソミーの約5%がこのモザイク型です。
モザイクとは、正常な細胞と異常がある細胞の両方が混ざった状態です。
モザイク型は正常な細胞もあるため一見わからず、診断できないこともあります。
他の型と比べて症状が軽くなる傾向にありますが、全ての人がそうではありません。
寿命
13トリソミーの多くは自然流産してしまい、無事に生まれても1ヶ月以内に約80%、1歳までに90%以上が亡くなってしまうといわれており、同じ染色体疾患とはいえ、ダウン症と比べるとかなり重い疾患だということが分かります。
13トリソミーの平均寿命は3~4ヶ月程度でしたが、近年では積極的な治療を行う傾向にあり、中には20歳の誕生日を迎える方もいるようです。
同じく染色体異常である18トリソミーと比べると、治療により生存率が改善するケースがやや多いとの報告もあります。
13トリソミーの子が生まれる確率
生まれてくる赤ちゃんのうち、約8,000人~12,000人に1人の確率で13トリソミーであるとされています。
染色体異常は受精卵の段階ではもっと多く起こっていますが、その多くは出生までいたりません。
13トリソミーも同様で、胎児の段階でおよそ50%は流産か死産となってしまいます。
高齢出産と13トリソミーの関係
女性の出産時の年齢と13トリソミーの子が生まれる確率には関係があります。
女性の社会進出にともない、晩婚化と出産年齢の高年化が進んでいます。
次の図は、「女性の出産時の年齢と、13トリソミーの子が生まれる確率」をあらわしています。

高齢出産とは35歳以上で初めて出産することをいい、「35歳以上だと染色体異常のある子が生まれる確率が高くなる」という話を聞いたことがあるかもしれません。
見ていただけると分かるとおり、35歳から急にその確率が高くなるわけではなく、緩やかに上昇します。
25歳のお母さんから13トリソミーの子が生まれる頻度は12,500人に1人ですが
35歳になると5,300人に1人
およそ2.4倍高くなります。
20歳のお母さんと40歳のお母さんを比べると、およそ8.9倍高くなります。
このグラフからもわかるように、若いからと言って13トリソミーの子が生まれないわけではありません。
逆に40歳のお母さんの場合の1,400人に1人という確率を、高いと見るかそれほどでもないと見るかはとらえ方次第ともいえます。
女性の年齢が高くなると卵子を作る際のエラーが起こりやすくなるため、胎児に染色体異常が起こる頻度が増えます。
遺伝するのか

家族や親族に13トリソミーの方がいらっしゃる場合、遺伝しないのかと心配されるかもしれませんが、転座型トリソミーの一部を除いてはほとんどの場合偶然に起こり、遺伝ではありません。
染色体が過剰になるトリソミーは、両親から染色体を1本ずつもらう過程が上手くいかないことなどによって起こり、高齢出産でその確率は上がりますが、それだけが原因ではなくはっきりとは分かっていません。
心配がある方は家系図などを元に遺伝カウンセリングを受けて、相談してみるとよいでしょう。
検査
13トリソミーだということはいつ分かるのでしょうか?
13トリソミーの検査には、出生前に検査をする方法と、出生後に調べる場合があります。
生まれる前にお腹の赤ちゃんについて18トリソミーやその他の染色体異常がないか調べる検査を「出生前診断」といい、高齢出産の増加とともに検査を受ける妊婦さんも増えています。
出生前診断では、超音波や母親の血液から調べる方法や、羊水を調べる方法などがあります。
生まれた後にその顔貌や身体的特徴から13トリソミーや何らかの染色体異常が疑われる場合は血液検査を行い診断します。
出生前診断

母体血清マーカー検査や新型出生前診断(NIPT)などの出生前診断を受けた結果、13トリソミーが疑われることがあります。
これは非確定検査であり、「13トリソミーの可能性があるかどうか?」を知ることができます。
もしこれらの検査で13トリソミーが疑われた場合、「羊水検査」や「絨毛検査」などの確定診断を受けて、本当にそうなのかを調べます。
妊婦検診の際に超音波検査(エコー検査)で何らかの異常を指摘され、詳しく調べる場合もあります。
超音波検査(エコー検査)で、脳に影があることや顔に異常がある、心臓奇形がある、標準より成長のスピードが遅いことなどによってその疑いがもたれます。
出生前診断で13トリソミーと分かったら

出生前診断で13トリソミーだと確定した場合、避けられないのが「産む(妊娠継続)」か「産まない」かの選択です。
出生前診断では、生まれた後の障がいの程度までは分かりません。
出生前診断を受ける場合は、事前に方針を固めておくことが望ましいですが、何らかの事情でいきなりそのような状況になると、冷静な判断ができないかもしれません。
まずは状況と気持ちの整理と正しい情報の収集のために、遺伝医学のプロフェッショナルである「臨床遺伝専門医」や「遺伝カウンセラー」による遺伝カウンセリングを受けるのがよいでしょう。
中立の立場でサポートしてくれます。
「妊娠を継続する」とした場合は、設備が整っており専門の医師がいる施設を探さなくてはなりません。
施設や医師の方針によっては、親が希望する治療を受けられないかもしれません。
安心して産める環境を整えることが大切です。
出産後に受けられる医療制度や福祉制度など様々なサポートも調べ万全の体制で備えます。
治療
13トリソミーに対する根治的な治療法は現在のところありません。
13トリソミーは生きていくのに重大な疾患があることが多く、少し前までは「延命のための治療はしない」という方針が主流だったようです。
しかし、医療技術の発展や考え方の多様性などにより、「子どもの最善の利益」を最優先し、家族の意思を尊重するように治療方針を決定するケースも増えてきています。
実際に、治療をおこなうことによって10歳の誕生日を迎えられる人も増えているそうです。
心疾患や消化器系、中枢神経系など手術による治療が可能なものもあります。
口唇口蓋裂や多指症なども手術を行う場合があります。
症状によっては手術などの積極的な治療はせず、看取りを前提とした胎児緩和ケアを行う場合もあります。
その症状の程度や親の考えは様々ですので、一人ひとりの状態に応じて方針を決めます。
サポート体制

病院の医療費や車いすなどの補装具の購入、場合によっては自宅をバリアフリーにするためのリフォーム費用など、さまざまなことにお金がかかります。
また、家族だけで13トリソミーの子を育てるのは限界があります。
そんなときに、さまざまな医療制度や福祉制度を受けることができます。
小児医療費助成制度や高額医療費支給制度などの医療費補助や、特別児童扶養手当などの手当金、障害基礎年金などがあります。
税金の減税措置や、一定の経済的援助を受けられることもあります。
身体障害者手帳を取得すると、医療費・補装具・リフォーム費用の助成、所得税・住民税などの軽減、公共料金の割引サービスなどが受けられます。
在宅の場合、どうしてもお母さんの負担が大きくなりがちです。
ショートステイ、訪問介護、障がい児デイケアなどが利用できます。
ただし、障がいが重い場合は施設側もどうしても人手が必要になるため、預けられる施設となるとまだまだ選択肢は少ないようです。
これらはお住まいの地域によって異なりますので、地域の自治体に相談してみるのがよいでしょう。
関係団体
自分ひとりや家族だけで悩みを抱える必要はありません。
さまざまな関係団体がありますので、まずは話を聞いてみるだけでもよいでしょう。
13トリソミーの子供を支援する親の会
13トリソミーの子とその両親のための会です。
13トリソミーに関する情報発信や、会員同士で情報交換をできるような取り組みを行っています。
NPO法人 親子の未来を支える会
-1才(うまれるまえ)からの社会的・医学的サポートのための活動を行っています。
気持ちのあり方や直面すると思われる状況の対処法などをまとめた冊子の無料配布や、経験者にチャット相談できるようなシステム提供があります。
まとめ

ひと昔前までは、13トリソミーは積極的治療は行わない、とされていましたが、医療の発展や考え方の多様性により、少しずつ変わってきているようです。
赤ちゃんを授かった段階で、「わが子が健康であってほしい」と願う気持ちは誰しもあり、それを出生前に調べる権利は尊重されるべきですが、13トリソミーのことを知ることによって、考え方の幅が広がるかもしれません。
13リソミーについて理解を深めるとともに、出生前診断を受けるにしても受けないにしても、これで良かったんだと納得のいく選択・決断ができることが大切です。