ダウン症(ダウン症候群)は遺伝情報がつまった染色体の異常によって起こり、その原因から「21トリソミー」とも呼ばれます。
心と身体の成長がゆっくりであることと、特徴的な顔ぼう(顔つき)があることで知られています。
生まれてくる赤ちゃんの染色体異常の中で一番多いのがこのダウン症であり、高齢出産ではダウン症の子が生まれる確率が高くなります。
「ダウン症候群」という呼び方をしますが、病気とは一概にいえず、アレルギーなどと同じように「生まれつきの体質」とする考え方も少しずつ広がってきています。
(本コラムでは便宜上「疾患」と記載します)
身体の機能や成長の過程でどのような問題が起こるかは個人差が大きく、他の子と変わらず元気に育つ子がいれば、1人では生活が難しいような人もいます。
ダウン症の特徴
ダウン症の主な特徴としては、成長障害や発達遅滞(発達障害)があります。
身体の成長や運動の発達、心の発達は同年代の子と比べてゆっくりです。
言葉での表現は苦手なことが多いですが、言葉の理解は良好です。
これらの成長の遅れは個人差がありますが、療育訓練を行うことにより生活の質の改善が期待できます。
心疾患や消化器官疾患などの合併症がよくみられます。
難聴や視力の問題なども起こりやすいため、定期的な健診が必要です。
【ダウン症の特徴】
- 成長障害
- 運動発達は一般の約2倍かかる
- 知的発達は個人差が大きい
- 合併症が多い
- 特徴的顔ぼう
- 高齢出産で頻度が高くなる
- 新生児の染色体異常で一番多い
特有の顔立ち
ダウン症にはつり上がった目など共通の特徴が見られる傾向にあります。
【ダウン症の特徴的顔ぼう】
- つり上がった目
- アーモンド形の目
- 目の間隔が離れている
- 低く短い鼻
- 大きな舌
- 耳の位置が低く、形が丸い
ダウン症では顔の中心部があまり成長しないため、成長とともに上記のような特徴が目立ってくることがあります。
舌が大きいため口から自然と舌の先が出てしまったり口が開いたままになることがありますが、これは知的障害の影響ではなく表情筋などが弱いためです。
耳は通常よりも下の方に位置し、耳の上側が尖っています。
全体的に耳は小さく丸く、耳たぶに変形が見られます。
首周りの肉付きがよく、首後ろの皮膚がダボついていることがあります。
身体的特徴
【ダウン症の身体的特徴】
- 筋肉の緊張が弱い
- 皮膚がよく伸びる
- 短い指
- 幅広で短い手のひら
- 手のひらに横1本のしわ
- サンダルギャップ
ダウン症の赤ちゃんや子供は筋肉の緊張が低く、全身の筋肉が柔らかく、体がぐらぐらとする特徴が見られます。
手の小指の関節が一つ少ないことが多く、内側に曲がっています。
足の指の、親指と人差し指の間が広くなっています(サンダルギャップ)。
これらの特徴は個人差があり、すべてが起こるわけではありません。
合併症
ダウン症には程度の差はありますが多くの合併症をともないやすく、身体の様々な部分が影響を受けます。
【ダウン症の合併症】
- 先天性心疾患(約50%)
- 消化器疾患(約10%)
- 難聴(40~75%)
- 甲状腺機能異常
- 目の問題(60%)(乱視、遠視、近視、白内障、斜視)
- アルツハイマー病(50~70%)(一般より10年ほど発症が早い)
- てんかん
- 白血病
*先天性心疾患*
心室中隔欠損症や心室中隔欠損症などの先天性心疾患は、ダウン症の小児の約半数に見られる合併症です。
心室中隔欠損症は心室の間に穴が空いている状態で、穴が小さい場合は成長とともに閉じることがありますが、穴が大きい、重症の場合には手術が必要となることがあります。
*消化器疾患*
十二指腸閉鎖や鎖肛などの消化器疾患があります。
ヒルシュスプルング病は一般集団における発症率が約5000人に1人であるのに対して、ダウン症では20-30人に1人の割合で発症することが知られています。
*その他*
首の関節が不安定になっていることもあり、それにより脊髄が圧迫される結果、歩き方と腕や手の使い方に変化が生じたり、排便や排尿の機能障害、筋力の低下などが起きたりします。
多くの人は甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症など)と糖尿病を発症します。
低身長、肥満の傾向にあり生活習慣病には注意が必要です。
ダウン症そのものに対する根治的な治療法はないため、合併症に対する治療や評価を行っていきます。
心臓や消化器の異常など、手術が可能なものは治療を行います。
早期発見・早期治療を行い、適切に対応することで重症化を防ぐことが重要です。
成長(発達)
ダウン症の子の運動機能の発達は、一般の子と比べておよそ2倍の時間をかけてゆっくりと進みます。
首のすわりやはいはい、ひとり歩きなどができるようになるまで時間がかかりますので、ゆっくり見守ってあげることが大切です。
言語の遅れでは特にしゃべることが苦手で、発語が不明瞭で聴力も弱い場合が多く、ことばでのコミュニケーションが苦手な傾向にあります。
逆に感受性は豊かで、天使のようだとよく表現されます。
注意欠如・多動症(注意欠陥/多動性障害とも呼ばれます)を思わせる行動がしばしばみられます。
ダウン症の小児の知能指数(IQ)には幅がありますが、正常な小児のIQが平均100であるのに比べ、ダウン症候群の小児の平均値はおよそ50です。
自閉的行動のリスクが高く、特に知的障害が重い小児ほど可能性が高くなります。
アルツハイマー病やそれに似た記憶障害、さらなる知能低下、人格の変化といった認知症の症状が50~70%にみられ、一般の人よりも早い40歳代での発症も珍しくありません。
早期から医療的視点に基づく教育や療育の支援を行うことで、できることの幅が広がり、進学・就業される方も多くいらっしゃいます。
療育とは医療と教育の連携により、その子が持つ発達能力をサポートし、充実した生活が送れるよう支援することです。
ひとりひとり成長のスピードや仕方が違うため、年齢と悩み事を考慮してその子に合った目標を設定し、できることを増やしていきます。
寿命
老化が普通より早く進むと考えられていますが、ダウン症の小児の大半が成人になることができます。
ダウン症の小児において死因の大半を占めているのは、心臓病と白血病です。
50年前の平均寿命は2~3歳だったといわれていますが、現在では小児医療の進歩や心疾患などの合併症に対する治療技術の発達により平均寿命は60歳前後までのびており、最近では70代、80代まで生きる方もいらっしゃいます。
ただし、5歳までの死亡率は一般の人と比べて高くなっています。
日本ではおよそ8万人のダウン症の方が暮らしています。
ダウン症の予後は、他の染色体異常症と比べて良好です。
妊娠とダウン症
ダウン症は新生児の染色体異常の中で一番多く、また妊娠中に調べる方法がいくつかあるため、多くの妊婦さんたちにとって関心の高いトピックとなっています。
ダウン症の子が生まれる確率
生まれてくる赤ちゃんのうち、600~800人に1人の確率でダウン症の赤ちゃんが生まれるとされており、その確率は世界どこの国でも同じです。
現在日本では年間におよそ2,000人程度のダウン症のある赤ちゃんが生まれています。
高齢出産によりその確率が高くなることが統計上のデータで出ていますが、男性側の年齢はほとんど関係がないようです。
そもそも、受精卵の段階ではもっと多くのダウン症が起こっています。
しかしその約80%は流産や死産となってしまい出生まで至りません。
生まれることができたダウン症の赤ちゃんは生命力が強いともいえるかもしれません。
高齢出産とダウン症の関係
女性の出産時の年齢とダウン症の子が生まれる確率には関係があります。
女性の社会進出にともない、晩婚化と出産年齢の高年化が進んでいます。
次の図は、「女性の出産時の年齢と、ダウン症の子が生まれる確率」をあらわしています。
高齢出産とは35歳以上で初めて出産することをいい、「35歳以上だとダウン症の子が生まれる確率が高くなる」という話を聞いたことがあるかもしれません。
見ていただけると分かるとおり、35歳から急にその確率が高くなるわけではなく、緩やかに上昇します。
20歳のお母さんからダウン症の子が生まれる頻度は1,667人に1人ですが
35歳になると385人に1人
およそ4倍高くなります。
20歳のお母さんと40歳のお母さんを比べると、およそ16倍高くなります。
このグラフからもわかるように、若いからと言ってダウン症の子が生まれないわけではありません。
逆に40歳のお母さんの場合の106人に1人という確率を、高いと見るかそれほどでもないと見るかはとらえ方次第ともいえます。
女性の年齢が高くなると卵子を作る際のエラーが起こりやすくなるため、胎児に染色体異常が起こる頻度が増えます。
ダウン症は遺伝するのか
きょうだいや親戚などの血縁者にダウン症の方がいる場合、遺伝するのか心配に思われるかもしれません。
ですが「ダウン症の原因」の項目で出たように遺伝するのは2~3%程度で、ほとんどの場合は遺伝することはなく、偶然に起こります。
心配がある方は家系図を元に遺伝カウンセリングを受けて、相談してみるとよいでしょう。
ダウン症の原因
ダウン症は染色体異常の一つです。
染色体とは、遺伝子を含むDNAが、大量に折り重なってできた構造体のことをいいます。
一本の染色体には数百から数千の遺伝子が含まれていて、染色体は遺伝子を正確に子孫へ伝えるのに重要な役割を担っています。
ヒトの身体は約37兆個もの細胞からできており、特定の細胞を除くほとんどすべての細胞には23対(46本)の染色体があります。
染色体は両親から1本ずつもらったものがペアになっており、ヒトの染色体23対のうち、1~22番までの22対を「常染色体」、23番目の1対は男女の性別を決める「性染色体」とよびます。
常染色体は基本的に長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
そのうちの21番染色体が、通常2本のはずのところ3本になった状態がダウン症候群(21トリソミー)です。
(トリは3を意味します)
染色体異常の中でもっともよく耳にするのがダウン症ですが、それは他の染色体異常よりも無事に生まれてくる確率が高いからです。
ダウン症以外の染色体異常は流産してしまう確率が高かったり、生まれることができても重篤な症状があり長く生きられない場合が大半です。
ダウン症は染色体の構造の違いによって、次のような型に分けられます。
標準型
ダウン症で一番多いのがこの標準型で、ダウン症の90~95%を占めています。
通常は父と母由来のそれぞれ1本ずつがペアになっている染色体ですが、どちらかよりさらにもう1本もらって3本になった状態です。
標準型の約90%は、母親の卵子が作られる過程のエラーにより起こります。
これは母親の年齢が高くなるほど起こりやすくなります。
残りの約10%は、父親の精子が作られる過程のエラーにより起こります。
加齢により起こりやすくはなりますが、誰にでもその可能性はあり、ほとんどの場合遺伝ではありません。
転座型
ダウン症の約3~5%を占めているのがこの転座型です。
両親どちらかの21番染色体に他の染色体がくっつくことで、部分的に3本になっている状態です。
21トリソミーにおこる転座のうち、その多くはロバートソン転座とよばれるものです。
両親のどちらかが、症状がなくても元から転座型染色体をもっている場合(転座保因者)と、新たに転座が生じる場合が50%ずつあり、前者は遺伝する可能性があります。
モザイク型
ダウン症の約1~2%に起こる珍しいパターンがこのモザイク型です。
正常な細胞と21トリソミーの細胞の両方が混ざった状態で、ほとんどの場合遺伝ではありません。
21トリソミーの細胞の割合が少ない場合、出生前診断で発見できず見逃される可能性があります。
他の標準型や転座型と比べて、症状は軽くなる傾向にあります。
ダウン症の検査
ダウン症だということはいつ分かるのでしょうか?
ダウン症の検査には、妊娠中に調べる方法と、生まれた後に調べるケースがあります。
生まれる前にお腹の赤ちゃんについてダウン症やその他の染色体異常がないか調べる検査を「出生前診断」といい、高齢出産の増加とともに検査を受ける妊婦さんも増えています。
超音波検査やNIPTなどでダウン症の可能性が分かり、羊水検査で診断します。
生まれた後にその顔貌や身体的特徴からダウン症が疑われる場合は血液検査を行い診断します。
出生前診断
妊婦健診の超音波検査で、お腹の赤ちゃんの首の後ろの厚みを指摘されることがあるかもしれません。
これはNT(エヌティ―:ヌーカル・トランスルーセンシ―)といい、この値が一定以上あるとダウン症の可能性が疑われます。
ただし、あくまで「可能性」の話でしかなく、そのときの赤ちゃんの姿勢や医師の技術によって値が大きく変わってしまうこともあります。
その他に、「母体血清マーカー検査」や「新型出生前診断(NIPT)」等の出生前診断でダウン症の疑いがわかります。
これらは非確定検査であり、「ダウン症の可能性があるかどうか?」を知ることができます。
もしこれらの検査でダウン症が疑われた場合、「羊水検査」や「絨毛検査」などの確定検査を受けて、本当にそうなのかを調べます。
出生後の検査
出生後に、その顔つきや合併症の存在などからダウン症が疑われることがあります。
その場合は血液検査で診断します。
診断が確定したら、専門医による診察のほか、心臓の超音波検査(心エコー検査)や血液検査などを行い合併症がないか調べます。
早期に治療することで、それによる健康障害を予防できる場合も多くあります。
そのため、定期的に甲状腺の病気、視覚障害、聴覚の異常について検査を行うのが有効です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群についても評価を行います。
首の痛みや神経痛、筋力低下、その他の神経症状がみられる場合は、頸椎のX線検査を行って、頸椎が不安定になっていないか確認します。
出生前診断でダウン症と分かったら
出生前診断でダウン症であると確定した場合、避けられないのが「産む(妊娠継続)」か「産まない」かの選択です。
中絶については賛否両論ありますが、それぞれ置かれている立場や環境、考え方が異なります。
「これが正解」という万人に共通するものはありません。
しかし、間違った情報や冷静さを欠いた状況での判断はあってはなりません。
出生前診断を受ける前に、遺伝医学のプロフェッショナルである「臨床遺伝専門医」や「遺伝カウンセラー」による遺伝カウンセリングを受けるのがよいでしょう。
出生前診断でダウン症が発覚しても、生まれた後の障がいの程度までは分かりません。
「妊娠を継続する」とした場合は、専門の設備がある産科を探し、生まれた後に受けられる医療制度や福祉制度など様々なサポートを調べ万全の体制で備えます。
ダウン症についての協会や団体がありますので、お話を聞くのも良いと思います。
ダウン症のサポート体制
よく、「ダウン症のある子を育てるのはお金がかかる」と言われますが、様々な公的支援制度や支援サービスがあるのをご存じでしょうか。
小児医療費助成制度や高額医療費支給制度などの医療費補助や、特別児童扶養手当などの手当金、障害基礎年金などがあります。
税金の減税措置や、自治体によっては一定の経済的援助を受けることができます。
教育についても、支援学級や放課後児童デイサービスなど、利用できる施設や制度は増加してきています。
日常生活においては、訪問介護などの生活支援サービスを利用することもできます。
自治体や民間など様々な療育施設がありますので、まずは地域の自治体の福祉課に相談してみるのがよいでしょう。
就学・就労
就学については特別支援学級や特別支援学校に通うことが多いようです。
人によっては、友達や先生の手を借りながら一般の学校へ通う子もいます。
小学校では、約10%のダウン症のある子が一般の学校へ通っています。
就労については、一般就労を目指す就労移行支援事業所などで職業訓練や就職活動の支援を受けて、一般企業や福祉作業所などで働いている人たちがいます。
ダウン症のある方のおよそ8割は就労経験があります。
月給は数千円~十数万円などさまざまなようです。
障がいのある人を一定割合雇用しなければならない法律など、国の雇用に関する法整備も徐々にされているため、雇用の機会は増えてきているのではないでしょうか。
また、芸術の分野で精力的に活動し活躍されている方もいます。
関係団体
自分ひとりや家族だけで悩みを抱える必要はありません。
様々な関係団体がありますので、まずは話を聞いてみるだけでもよいでしょう。
日本ダウン症協会
相談事業や情報提供事業などを行っています。
全国に支部があり、地域の状況や情報の提供をしてくれます。
ダウン症のある子をもつベテランの相談員に電話相談もできます。
NPO法人 親子の未来を支える会
-1才(うまれるまえ)からの社会的・医学的サポートのための活動を行っています。
気持ちのあり方や直面すると思われる状況の対処法などをまとめた冊子の無料配布や、経験者にチャット相談できるようなシステム提供があります。
まとめ
日本ではたくさんのダウン症の方が生活し、芸術などの分野で活躍なさっている方もいらっしゃいます。
だからこそ耳にする機会も多く、赤ちゃんを授かった段階で、「わが子が健康であってほしい」と願う気持ちは誰しもあると思います。
それを出生前に調べる権利は尊重されるべきですが、ダウン症候群がどういった疾患なのかを知ることによって、考え方の幅が広がるかもしれません。
厚生労働科学研究班によると、ダウン症がある方の9割以上が「毎日幸せ」と感じていると報告されています。
ダウン症について理解を深めるとともに、出生前診断を受けるにしても受けないにしても、これで良かったんだと納得のいく選択・決断ができることが大切です。