体が未発達で小さく生まれた赤ちゃんのことを「未熟児」 「低出生体重児」などといい、近年では医療技術の発達や時代背景などによりその割合は増えています。
なぜ平均より小さく生まれるのでしょうか?そして小さく生まれるとどのようなことが問題になるのでしょうか?
ここでは、低出生体重児として生まれる原因とその割合、小さく生まれた赤ちゃんのリスクなどについてご紹介いたします。
低出生体重児とは
低出生体重児とは読んで字のごとく低体重で生まれた赤ちゃんのことで、2,500g未満で生まれると低出生体重児に分類されます。
生まれたときの赤ちゃんの体重は3,000g前後が一般的と認識している方が多いのではないかと思いますが、実際に2,500g~4,000g未満で生まれた赤ちゃんを「正出生体重児」と定義しています。
ところで、「未熟児」とはどう違うのでしょうか?
未熟児については母子保護法によって定義されており、「未熟児とは、身体の発育が未熟のまま出生した乳児であつて、正常児が出生時に有する諸機能を得るに至るまでのものをいう。」とされています。
つまり低出生体重児も広い意味では未熟児に含まれます。
しかし表現があいまいなため、現在ではあまり使われず出生時の体重と在胎週数に分けた考え方が用いられています。
【出生体重による分類】
2,500~4,000g未満 | 正出生体重児(一般的な体重) |
2,500g未満 | 低出生体重児 |
1,500g未満 | 極低出生体重児 |
1,000g未満 | 超低出生体重児 |
出生時の体重が2,500g未満の場合はすべて低出生体重に分類され、その中でもさらに小さい1,500g未満、1,000g未満の場合にそれぞれ「極低出生体重児」「超低出生体重児」と呼ばれます。
早産児との違い
【在胎数数による分類】
在胎週数42週以上で出生 | 過期産児 |
在胎週数37~42週未満で出生 | 正期産児 |
在胎週数37週未満で出生 | 早産児 |
在胎週数の週数は、妊娠週数の週数と同じとして考えます。
一般的に早産で生まれるとまだ身体も小さく低出生体重児となる可能性が高くなります。
早産の中でも妊娠34週を過ぎればママのおなかの外に出ても人工呼吸器に頼らず自力で呼吸ができる可能性が高くなり、重篤な合併症がなく無事に退院できるケースが多くなります。
妊娠週数が短いほど体の各器官が未熟なため長期に渡る新生児集中治療室(NICU)での治療が必要となります。
妊娠22週未満の出産は流産といい、現在の医療では残念ながら生存例はありません。
なお正期産でも何らかの理由により発育が悪く低出生体重児として生まれてくるケースもあります。
妊娠期間に対して体が小さい赤ちゃんは体質による場合もありますが、多くは胎児期に栄養が十分でなかったり赤ちゃん自身の体になんらかのトラブルがあるなどの理由で発育が遅れたことによります。
低出生体重児として生まれる原因
体が小さく生まれてくるのは体質の場合もありますが、さまざまな原因が考えられます。
【低出生体重児として生まれる原因】
- 双子などの多胎妊娠
- 妊娠高血圧症候群
- 妊娠糖尿病
- 高齢出産
- 前置胎盤:胎盤が子宮の出口あたりにある
- 常位胎盤早期剥離:胎盤がはがれてしまう
- 子宮頸管無力症:産道の一部である子宮頸管が勝手に開いてしまう
- 子宮の病気や異常
- 感染症
- 羊水過多・羊水過少
- 妊娠中の栄養不良
- ママの喫煙
ママの妊娠合併症などで胎盤の機能が低下したり血管にトラブルがあると、おなかの赤ちゃんに十分な栄養や酸素が行き届かず発育が遅れて低出生体重児となりやすくなります。
また妊娠前からやせていることに加え妊娠中も体重増加が少ない妊婦さんの増加も指摘されています。
妊娠中の喫煙や受動喫煙は早産や低出生体重児のリスクを高めるとされています。
そのほか医療技術の進歩により、発育が十分でない胎児の救える命が増えたことも要因として挙げられます。
母児の状態から出産予定日を待たずに早めに取り出してあげた方がよいと判断された場合には、より安全に管理しやすい予定帝王切開とするケースも増えています。
多胎妊娠
日本での双子の出生割合は1995年では0.79%でしたが、2022年では1.1%とこの30年弱でも増加しています。
双子や三つ子などの多胎妊娠が増えている理由として、不妊治療の増加があげられます。
不妊治療により排卵誘発剤を用いたり二つ以上の受精卵を子宮に移植すると多胎妊娠になる確率が上がります。
多胎妊娠では一人の妊娠の場合と比べてママのおなかはより早く大きくなるため早産になる確率がおよそ10倍高くなり、人工早産を含めた双子出産の約50%は早産で生まれています。
妊娠糖尿病
妊娠糖尿病とは妊娠前は正常値だった人が、糖尿病ほどではない糖代謝異常が妊娠中に起こった状態のことをいいます。
ママの血糖値が高い状態が続くと、おなかの赤ちゃんは巨大児となったり、逆に胎盤の機能が低下したり余分な糖が赤血球と結合し酸素が運べないことで胎児発育不全を引き起こすこともあります。
高齢出産
一般的に35歳以上で初めて出産することを高齢出産といいます。
年齢が高くなると血管が老化し高血圧などのトラブルがおきやすくなるほか、肥満などがあると妊娠糖尿病のリスクも高くなります。
上記のような妊娠合併症のほか体力の低下などにより高齢出産では低出生体重児となる割合が高くなります。
2022年の人口動態統計によると、低出生体重児が生まれる割合は25~29歳の母親では8.7%でしたが、35~39歳の母親では10.3%と増加しており、40~44歳では11.8%という結果でした。
増えている低出生体重児の割合
令和元年のデータによると、生まれてきた赤ちゃんのうち低出生体重児の割合はおよそ9.4%です。
生まれたときの平均体重は、令和4年のデータによると単産で3.02kg、双子以上の複産で2.24kgで、双子以上の場合は平均体重がすでに2,500g未満という結果でした。
【出生時の平均体重と体重別割合(2022年)】
双子以上での出産割合自体も増えており、昭和50年では全体の1.1%だったのに対して令和元年では2.2%と倍増していました。
2,500g未満の低出生体重児の割合で比較してみると、単産の場合は昭和50年では4.6%だったのに対して令和4年では8.1%と増加していることが分かります。
双子以上の複産での低出生体重児の割合は昭和50年では52.5%だったのに対して令和4年では70.6%とこちらも増加していることが分かります。
低出生体重児の割合が増えている要因として、前述のように不妊治療による双子や三つ子の出生数が増えたことや、帝王切開の技術や新生児医療など技術の進歩により救える命が増えたことがあげられます。
小さく生まれた赤ちゃんのリスク
低出生体重児で生まれた赤ちゃんは何が問題になるのでしょうか?
【低出生体重児で生まれた赤ちゃんのリスク】
- 小さく生まれるほど長期のケアが必要
- 障害が残る可能性
- 発達や発育の遅延
- 感染症にかかりやすい
- 将来の生活習慣病のリスク
正出生体重児に近い2,500g程度で生まれた赤ちゃんは、決して体の機能が成熟しているわけではなく呼吸や哺乳が十分に出来ず医療的ケアが必要になりますが、多くの場合は1歳あたりまでに成長が追いつきます。
一方で極低出生体重児と呼ばれる1,500g未満で生まれた赤ちゃんでは当然それだけ各臓器の構造や機能も未熟なため十分に発達するまで長期に渡ってNICUなどでの治療が必要となります。
小さく生まれるほど呼吸障害や心不全、脳室内出血や視力障害などの合併症が起こる可能性が高くなり、脳性麻痺などの運動障害や知的障害などの障害が残る頻度も高くなります。
出生後に明らかな障害がない子であっても運動や言葉の発達が遅いことがあり、一人ひとりに合ったケアが必要になることもあります。
また低出生体重児で生まれた赤ちゃんは免疫力が弱いため感染症や病気になりやすいため、定期的な観察が大切です。
さまざまなリスクがありますが、周産期医療の進歩によって亡くなる確率や重度の障害が残る確率は減少しており、発達についても退院時の状態が良好なら3歳ごろまでには一般の子に追いつくと考えられています。
ただし低出生体重児で生まれると成人後に生活習慣病を発症するリスクが高くなることが指摘されています。
胎児の時期に低栄養状態で過ごすと、少ない栄養でも生きていける体質になっている可能性が高いためです。
低出生体重児の予防
低出生体重児を防ぐためには、原因となる妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症の早期発見と早期治療が大切になります。
そのために妊婦健診をしっかりと受けましょう。
また妊娠中のママの適切な体重増加は健康な赤ちゃんの出産のために重要なのはもちろんのこと、妊娠前の体格が痩せていることも低出生体重児で生まれる割合が高くなります。
妊娠を望むなら妊娠前から健康な体づくりを心がけたいですね。
タバコの煙に含まれる有害物質は血流を悪くしたり酸素運搬能力の低下につながり、流産や早産になるリスクが2~3倍違うともいわれています。
喫煙本数が多いと低出生体重児や早産のリスクを増加させるとの多くの研究があります。
ほとんどの女性は妊娠が分かると同時に禁煙していますが、副流煙による受動喫煙でも同じように悪影響がありますので、同居のご家族や職場の方の理解を得ることが大切です。
まとめ
体重が2,500g未満で生まれる低出生体重児の割合は約9.4%で決して珍しくありません。
在胎週数が短く小柄で生まれるほど体の各機能が未熟で障害が残る可能性や、発育や発達が遅れる頻度が高くなります。
その原因は体質など防げないものもありますが、ママが栄養をきちんと摂る、受動喫煙や感染症対策をしっかり講じるなど予防のためにできることから始めてみましょう。