4pマイナス症候群とは指定難病の一つで、長期にわたる継続的な治療やケアが必要なことから、小児慢性特定疾病として認定されています。
「4p欠失症候群」や、「ウォルフ・ヒルシュホーン症候群」とも呼ばれます。
症状としては胎児期から続く成長障害と、中等度から重度の精神発達の遅れ(知的障害)、難治性てんかん、臓器を含む全身に起こるさまざまな形態異常、特徴的顔貌などがあり、影響は生涯にわたって患者の健康と発達に及びます。
ここでは4pマイナス症候群について、どのような特徴があるのか?原因は?といった内容も含めて基本的な情報をご紹介いたします。
4pマイナス症候群の特徴・症状
【4pマイナス症候群の特徴と主な症状】
- 特徴的顔貌
- 成長障害
- 運動発達の遅れ
- 精神発達遅滞(知的障害)
- 難治性てんかん
- 多発形態異常
特徴的顔貌
染色体異常では疾患ごとに似たような特徴を持つ顔立ちが見られることがありますが、4pマイナス症候群も以下の特徴的顔ぼうがあることで知られています。
【4pマイナス症候群の特徴的顔貌(がんぼう)】
- 広くて平らな鼻筋
- 突き出たおでこ
- 突き出た眉間
- 弓状の眉
- 左右の目が離れている
- 飛び出たような眼球
- 眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がっている)
- 内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ)
- 人中(鼻と上唇の間)が短い
- 下向きの口
- 下顎後退
- 耳の位置が低い
- 顔面非対称
「広くて平らな鼻筋」は4pマイナス症候群の大きな特徴で、「ギリシャ兵士のヘルメット様」とも言われます。
額が広く、目の間隔が離れているなどの特徴を持ちます。
内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ)とは目がしらを皮膚が覆っている状態で、4pマイナス症候群のほかダウン症の特徴の一つとして挙げられます。蒙古ひだとも呼ばれます。
成長障害
胎児期から発育不全があり、多くは2,500g未満の低出生体重児として生まれてきます。
胎児の成長障害にはさまざまな要因がありますが、染色体異常においてよく見られます。
生まれた後も哺乳障害などのため、同年代の子と比べて体が小さく低身長、低体重です。
学童期や思春期になっても摂食障害がしばしば見られます。
運動発達の遅れ
筋緊張低下によって全身の筋肉の張りが弱く力が入りづらい状態のため、はいはいや座る、立つといった運動機能の発達が遅れます。
自分でバランスを取りづらく、転びやすいため注意が必要です。
重度の場合は歩けないケースも多々あります。
精神発達遅滞(知的障害)
中等度から重度の精神発達の遅れが見られ、言葉の使用が難しい場合もあります。
日常生活も介助を必要とするケースがほとんどでしょう。
難治性てんかん
てんかんとは、脳内の異常な電気活動が原因で反復する発作を引き起こす神経系の疾患です。
てんかんの発作は全身がけいれんする大発作や、一時的な意識消失、体の特定の部位のけいれんやふるえ、視覚や聴覚の異常など、人によってさまざまな形で現れます。
その中でも、二つ以上の適切に選択された抗てんかん薬を適切な用量で使用してもてんかん発作をコントロールできない状態を「難治性てんかん」といいます。
てんかん発作は4pマイナス症候群の大きな特徴の一つです。
多発形態異常
【4pマイナス症候群の形態異常】
- 先天性心疾患
- 小頭症
- 口唇口蓋裂
- 小顎症
- 腎臓合併症
すべての形態異常が起こるわけではありませんが、先天性心疾患(心奇形)は特に高頻度で見られます。
「小頭症」とは頭が異常に小さい状態のことで、多くは脳の発達が不完全で小さいために起こります。
口の一部が裂けている「口唇裂」や、口の中の天井の一部が裂けている「口蓋裂」もよく見られます。
「小顎症」とはあごが極端に後退した状態で、遺伝性疾患でしばしば見られます。
哺乳の弱さや歯並びの悪さにもつながります。
なぜ起こる?原因とは
4pマイナス症候群は染色体異常によって起こる、先天性の病気です。
ヒトの染色体は23対(46本)あり、そのうち22対の常染色体は長いものから順番に1~22番の番号が割り振られています。
4pマイナス症候群は、4番染色体の短腕と呼ばれる領域の一部分が欠けることによって起こります。
染色体は親から子へ「ヒト」の情報を伝える役割を担っています。
どの領域がどのような情報を伝えているのかは研究が進められていますが、4pマイナス症候群の場合は上記の領域が欠けていることによって、特徴的な顔貌や成長障害、発達遅延などの類似の症状が現れることが分かっています。
遺伝するのか?
染色体異常と聞くと親から子へ遺伝するように感じる方が多いようですが、その多くは遺伝ではなく突然変異で起こります。
4pマイナス症候群もその8割以上は卵子や精子が減数分裂する際のエラーなどによって偶然起こるもので、家族歴や妊婦さんの生活習慣や飲食物などは関係ありません。
遺伝する可能性があるのは、両親のどちらかが染色体構造の変異を持っているけど症状はない「保因者」であるケースで、約6-10%に見られます。
治療方法
4pマイナス症候群の原因である染色体異常そのものを根本から直す治療法は存在しないため、症状に応じた対症療法を中心に治療を行っていきます。
心奇形や腎臓の異常など、臓器の問題については必要に応じて手術を行います。
新生児期は呼吸障害や成長障害がよくみられるため、呼吸困難がある場合は人工呼吸器を、哺乳障害や成長障害には経管栄養なども取り入れて成長を促します。
成長するにつれて言語発達の遅れや運動の遅れが出てくるため、言語療法、作業療法、理学療法など、個々の状況に合わせて発達支援を行っていきます。
そのほか歯科、眼科、耳鼻科については定期健診によって早期治療をすることが大切です。
てんかんに対しては薬物療法による管理や、場合によっては手術を行います。
4pマイナス症候群の治療と管理は、患者一人ひとりの状態に合わせてカスタマイズされる必要があり、多職種の専門家による総合的なアプローチが重要です。
定期的な健康診断と継続的なフォローアップにより、患者の健康状態を最適に保つことが目指されます。
平均寿命
4pマイナス症候群の患者における平均寿命は、症状の重症度や合併症の有無によって大きく異なります。
重度の心臓疾患や呼吸器系の問題など、生命を脅かす合併症を持つ患者は、それがない患者に比べて寿命が短くなる可能性がありますが、近年の医療の進歩により、適切な医療介入と継続的なケアを受けることで、生命予後は比較的良好に保たれることが多いです。
しかし、4pマイナス症候群は成長と発達において顕著な遅れを示します。
特に、身体的な成長の遅れ、言語発達の遅滞、および知的障害が一般的な症状として挙げられます。
これらの発達障害は、個々の患者に合わせた教育プログラムや療育の提供により、その能力を最大限に引きだす努力がなされます。
発達の遅れは患者と家族にとって多大なる挑戦となりますが、適切な支援体制が整っていることで、患者の生活の質の向上が期待できます。
4pマイナス症候群の子が生まれる確率
4pマイナス症候群の子が生まれる確率は、約5万人に1人の割合であると推定されています。
発生頻度が少ないことと、症状が軽度の場合は4pマイナス症候群だと分からず診断されていないケースもあり、正確な発生率を特定することは難しいでしょう。
検査方法
4pマイナス症候群の診断は染色体検査によって行われ、この検査は生まれる前と生まれた後のどちらでも可能です。
染色体異常は生まれつきのものなので後天的になることはありませんが、症状が軽い場合は新生児期には4pマイナス症候群だと気づかれず、成長とともに発達の遅れなどによって何らかの異常を疑い検査をして、はじめてわかることもあります。
出生前診断
妊娠中に胎児の病気や障害について調べる検査を「出生前診断」といい、広義には妊婦健診で行うエコー検査も含まれます。
4pマイナス症候群を調べるために出生前診断を受けることはほとんどないと思いますが、ダウン症などを調べる「NIPT(新型出生前診断)」を受けた結果、思わず発覚することがあります。
NIPTを実施している施設では基本的に4pマイナス症候群は調べませんが、一部の「微小欠失症検査」を行っている検査施設では検査対象疾患となっています。
DNAサイエンスでは4pマイナス症候群も検査対象疾患です。
生まれた後の検査
生まれたときに成長障害や、広くて平らな鼻筋や突き出たおでこなどの特徴的顔ぼうがある、筋緊張の低下など4pマイナス症候群の特徴的な症状がある場合や、そこまで分からなくとも何らかの染色体異常が疑われる場合、染色体検査を行います。
出生前診断で4pマイナス症候群と分かったら?
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきず、4pマイナス症候群に関しても全身にさまざまな形態異常が発生する可能性が高いことから同様の問題がつきまといます。
出生前診断では生まれた後の障害の程度までは分かりませんが、生まれる前に4pマイナス症候群が明らかになることで適切な分娩環境を整えたり、出生後に起こり得る問題について早期に計画を立てることが可能になります。
4pマイナス症候群では精神発達の遅れや運動の遅れがある可能性がありますが、それは4pマイナス症候群に限ったことではありませんし、誰しも生きていれば後天的に病気や障害を負うリスクと常に隣り合わせです。
しかし長期的なケアが必要になることで、将来に渡る不安は抱くことと思います。
染色体の疾患については、遺伝医学に関する専門家である「臨床遺伝専門医」や「遺伝カウンセラー」による遺伝カウンセリングを受けて、現状を正しく理解し取れる選択肢を知ったうえで自己決定することが大切です。
まとめ
4pマイナス症候群は「ギリシャ兵士のヘルメット様」と呼ばれる広くて平らな鼻筋を代表とする特徴的な顔ぼうのほか、運動発達や精神発達の遅れ、難治性てんかんなど、健康と成長に多大な影響があります。
治療は症状に応じた対症療法が中心であり、医療的管理はもちろんのこと作業療法、言語療法など多職種からの支援が必要です。
原因そのものに対する治療法はありませんが、早くから治療や各種リハビリを行うことで自分でできることの幅が広がる可能性があります。
生まれる前の出生前診断で4pマイナス症候群だと分かった場合、どのような疾患か分からず不安になるでしょうが、早い段階で発覚したからこそできる対応もあります。
【参考文献】