XYY症候群は性染色体の異常によって起こりますが、聞いたことがない・知らないという人が多いのではないでしょうか。
染色体異常の一つではありますが、多くの方は症状が無いか少ないため、本人すら気づいていないというケースも多く、その発生頻度に対してあまり情報が多くありません。
ここではXYY症候群(ヤコブ症候群)について、どのような体質なのか?遺伝するのか?といった内容も含めて基本的な情報をご紹介いたします。
XYY症候群(ヤコブ症候群)とは
XYY症候群とは、「47,XYY」または「ヤコブ症候群」ともいい、男女の性別を決める性染色体の異常によって起こります。
XYY症候群は男性特有のもので、「症候群」とはいいますが、命に関わるような問題があるわけではなく、そればかりか多くの人は全く症状がなく一生XYY症候群だと気づかない人もおり、病気というよりはアレルギーなどと同じように「生まれつきの体質」と考えた方がよいでしょう。
(本コラムでは便宜上「疾患」と記載します)
なお、似ていますが同じく男性に特有の性染色体疾患の一つである「クラインフェルター症候群(XXY症候群)」とは異なることに注意が必要です。
XYY症候群の特徴
XYY症候群の人は一般の人より身長が高めで、手足が長い傾向にありますが外見で分かる特徴はほとんどなく、重篤な合併症もないためXYY症候群だということを知らずに過ごしている人が大半だといわれています。
軽度の行動障害、学習障害、発話の遅延などが起こる場合があります。
古い文献やインターネット上の古い情報などでは「非行・犯罪者が多い、暴力的な行動を起こす」などと書かれていますが、近年この情報は誤りであることが分かっています。
XYY症候群の症状・合併症
多くのXYY症候群の人は症状がないか軽度ですが、言葉の遅れや学習障害、運動能力の遅れがみられることがあります。
同じく男性に特有の性染色体疾患である「XXY症候群(クラインフェルター症候群)」は男性不妊の原因の一つですが、XYY症候群は基本的にはそういった症状はなく、性機能は正常です。
しかし、何らかの造精機能障害(精子を造り出す機能に問題)がある可能性が一般の人と比べると高い傾向にありますので、検査で確認をするのがよいでしょう。
XYY症候群の発達
XYY症候群では筋肉の緊張が弱い傾向にあり、歩き始める頃に異変に気づく可能性があります。
適切な対応をしなければ、運動能力の遅れにつながります。
知能は正常範囲ですが、言葉や学習の遅れがあることが多く、まれに軽度の知的障害があります。
注意欠如・多動性やうつ病が起こることもあり、自閉症の頻度も高めです。
もちろん症状の有無や程度は個人差があります。
XYY症候群の療育と治療
XYY症候群に対する根治的な治療はありません。
言葉の遅れに対する「言語療法」や、運動の遅れに対する「理学療法」を行います。
必要の応じて「行動療法」も行います。
療育なしで遅れに対応できることはまれですので、小児期からの早期ケアが大切です。
学習障害があっても、適切な教育や指導を行うことによって進学する上での助けとなります。
XYY症候群の原因
XYY症候群は性染色体異常の一つです。
染色体とは、遺伝子を含むDNAが、大量に折り重なってできた構造体のことをいいます。
一本の染色体には数百から数千の遺伝子が含まれていて、染色体は遺伝子を正確に子孫へ伝えるのに重要な役割を担っています。
染色体は2本ずつペアになっており、ヒトの染色体23対(46本)のうち、1~22番までの22対は「常染色体」、23番目の残りの1対は男女の性別を決める「性染色体」と呼びます。
常染色体は番号が小さい方が基本的に大きく(1番の染色体が大きい)、また保有している遺伝子の数も多い傾向にあります(一部例外あり)。
性染色体には「X染色体」と「Y染色体」があり、その組合せにより男性になるか女性になるかが決まります。
「XY」の組合せで一般的な男性、「XX」の組合せで一般的な女性になります。
染色体は両親から子に受け継ぐ際に、対になっている片方を父親から、もう片方を母親から1本ずつ受け渡します。
XYY症候群は、この両親から染色体を受け継ぐ過程がうまくいかず、通常よりY染色体が1本多い「XYY」になった状態です。
さらにY染色体が多いケース(XYYYなど)もありますが、出生まで至らずほぼ流産してしまいます。
余分なY染色体の数が多いほど無事に生まれたとしても重い障害があることが多くなります。
XYY症候群の寿命
生命に影響がある症状があるわけではないため、XYY症候群だからといって特別に寿命が短いことはなく、一般の人と同じです。
XYY症候群の子が生まれる確率
生れてくる男の子の赤ちゃんのうち、およそ1,000人に1人の確率でXYY症候群であるとされていますが、その症状の少なさから特に検査をすることなく、XYY症候群と気づかず生涯を送る方が約90%だとも言われています。
高齢出産とXYY症候群の関係
ママの年齢が35歳以上で、はじめて出産する場合を一般的に「高齢出産」といいます。
高齢出産では胎児の染色体異常がおこる確率が高くなりますが、特に通常2本である染色体が1本や3本になる「数の異常」がおこりやすくなることがデータ上分かっています。
これは主に「常染色体」におこり、「性染色体」の数の異常は、基本的にそれほど女性の出産年齢に依存しません。
XYY症候群は高齢出産でも発生頻度はわずかに上昇する程度です。
XYY症候群は遺伝するのか
染色体異常と聞くと、遺伝するのではと思われるかもしれませんが、そのほとんどは遺伝ではなく偶然に起こります。
XYY症候群も両親や環境のせいではなく、誰にでも起こりうると言われています。
先に生まれたきょうだいがXYY症候群だからと言って、次に生まれる子に影響はほとんどの場合ありません。
XYY症候群の検査
生まれる前の出生前診断でXYY症候群だと発覚する場合もありますが、生まれた後、ある程度成長してから特徴的な能力の遅れなどから何らかの疾患を疑い、検査して初めて発覚する場合もあります。
XYY症候群は症状がないことや軽いことも多く、検査をしなかった場合一生わからないままの方が大半だと言われています。
診断は血液検査により染色体の分析を行います。
出生前診断
ダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断で、思わず発覚することがあります。
新型出生前診断(NIPT)を行っている一部の施設では、XYY症候群も検査対象に含まれます。
これは非確定検査で、「XYY症候群の可能性があるかどうか?」が分かります。
本当にXYY症候群かどうか?を調べたい場合は、羊水検査もしくは絨毛検査を受けます。
出生後の検査
後天的にXYY症候群になることはありませんが、成長とともに言葉や運動能力の遅れなどから何らかの疾患の疑いが持たれることがあります。
診断は血液を検査することによって行いますが、何らかの染色体異常を疑って調べないと発覚しないでしょう。
なぜなら小児期に言葉や運動の遅れが出ても、それがただの個人差なのか染色体異常によるものなのか医師でも分からないことも多くあり、関連を考えないと検査をしないからです。
XYY症候群だと発覚したのがある程度成長してからだった場合、本人およびそのご家族も驚き不安になることだと思います。
そのような場合はかかりつけのお医者さまと相談しながら、場合によっては遺伝カウンセリングを受けて、本人に告知するタイミングなどを見計らうのがよいでしょう。
出生前診断でXYY症候群と分かったら
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきませんが、XYY症候群は生きていくうえで重篤な症状があるわけではなく、多くの人はXYY症候群だと一生気づかないほどです。
間違っても、思わぬ疾患名を告げられて気が動転し、冷静でない判断をしてしまわないよう、正しい情報を得る必要があります。
染色体の疾患については、遺伝医学に関する専門家である「臨床遺伝専門医」や「遺伝カウンセラー」というプロがカウンセリングを行っていますので、相談してみるのもいいでしょう。
XYY症候群の就学・就労
就学については学業に大きな問題はなく、基本的には普通の学校に通っています。
XYY症候群だと周囲の人に伝える必要はありませんが、明らかな学習障害などがある場合はサポートを得るためにも説明が必要でしょう。
就労についても同様で、一般の人と同じように働いています。
まとめ
XYY症候群だと診断されている人は全体の約10%程度だと言われ、その多くの場合は出生前診断で発覚します。
全く症状がない場合が多いですが、症状の有無や程度までは出生前診断では分かりません。
生まれる前にXYY症候群だと分かると、どんな疾患が分からず不安になるでしょうが、まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーなどの専門家に相談してみるのがよいでしょう。
生まれる前に分かっていれば、早めの対応ができます。
XYY症候群に対する正しい知識を持つことによって、必要以上の不安を減らすことができるのではないかと思います。