トリプルX症候群は性染色体の異常によっておこる染色体異常の一つですが、多くの方は症状が無いか少ないため、本人すら気づいていないというケースも多く、その発生頻度に対して情報が多くありません。
ここではトリプルX症候群について、どのような症状なのか?遺伝はするのか?といった内容も含めて基本的な情報をご紹介いたします。
トリプルX症候群(トリソミーX)とは
トリプルX症候群とは、「トリソミーX」、または「Xトリソミー」、または「XXX症候群」ともいい、男女の性別を決める性染色体の異常によって起こります。
一般の女性より、さらにX染色体が多いことから、「超女性」と呼んだりもします。
(これは、一般の女性より優れているわけでも劣っているわけでもありません)
トリプルX症候群は女性特有のもので、「症候群」とはいいますが、命に関わるような問題があるわけではなく、一生それと気づかない人もたくさんおり、病気というよりはアレルギーなどと同じように「生まれつきの体質」と考えるのが自然です。
(本コラムでは便宜上「疾患」と記載します)
「症候群」と聞くと病気や障害だというイメージが先行してしまうため、「トリプルX女性」としたほうが適切ではないかという声もあります。
特徴
トリプルX症候群の女性は身長が高めでその割りに低体重の傾向にありますが、外見に目立った特徴はなく、合併症も特にありません。
言葉や運動能力の遅れなどがみられることがあります。
ただし症状の程度にはかなり個人差があります。
症状と合併症
多くのトリプルX症候群の人は症状がないか軽度ですが、言葉や知的発達の遅れ、学習障害、運動能力の遅れがみられることがあります。
卵巣発育不全などにより月経不順や不妊症がみられることがありますが、多くは性的発達が正常で、大人になって子どもを授かることができます。
まれに腎臓の異常がみられます。
成長(発達)
トリプルX症候群の人は筋肉の緊張が弱いために、歩き始めるのが遅いことがあります。
関節が柔らかいことが多く、怪我に要注意です。
運動が苦手なことが多いようです。
背骨が左右に曲がる「脊柱側弯症」になりやすいですが、積極的に運動をすることで予防につながります。
言葉の発達(習得)が遅れることが多く、放置すると学習の遅れにつながります。
早い段階からのケアが重要です。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)の発生率が高めです。
特に言葉の発達の遅れがあると、学校や社会での不安を悪化させ、より多くの行動上の問題が起こりやすくなると考えられています。
知的な発達は、平均か少し低いようです。
小児期からの様々な刺激が良い影響を与えます。
これらの程度は人によって大きく異なり、明らかに発達が遅れていると分かることもあれば、不注意・不器用だなと感じる程度の場合もあるようです。
療育と治療
トリプルX症候群に対する根治的な治療はありません。
言葉の遅れに対する「言語療法」や、運動の遅れに対する「理学療法」を行います。
心理的不安に対しては「行動療法」を行います。
小児期からの早期ケアにより能力は向上します。
トリプルX症候群だからと言って特別扱いするのではなく、外からの様々な刺激を増やすことにより、発達の遅れを防ぐことが可能です。
運動の遅れについても、怪我に注意しながらも積極的に動くことが推奨されます。
原因
トリプルX症候群は性染色体異常の一つです。
染色体とは、遺伝子を含むDNAが、大量に折り重なってできた構造体のことをいいます。
一本の染色体には数百から数千の遺伝子が含まれていて、染色体は遺伝子を正確に子孫へ伝えるのに重要な役割を担っています。
染色体は2本ずつペアになっており、ヒトの染色体23対(46本)のうち、1~22番までの22対は「常染色体」、23番目の残りの1対は男女の性別を決める「性染色体」と呼びます。
常染色体は番号が小さい方が基本的に大きく(1番の染色体が大きい)、また保有している遺伝子の数も多い傾向にあります(一部例外あり)。
性染色体には「X染色体」と「Y染色体」があり、その組合せにより男性になるか女性になるかが決まります。
「XY」の組合せで一般的な男性、「XX」の組合せで一般的な女性になります。
染色体は両親から子に受け継ぐ際に、対になっている片方を父親から、もう片方を母親から1本ずつ受け渡します。
トリプルX症候群は、この両親から染色体を受け継ぐ過程がうまくいかず、通常よりX染色体が1本多い「XXX」になった状態です。
まれに、X染色体をトリプル以上の4本や5本もっていることがあり、余分なX染色体の数が多いほど、症状が重くなります。
寿命
生命に影響がある症状があるわけではないため、トリプルX症候群だからといって特別に寿命が短いことはなく、一般の人と同じです。
トリプルX症候群の子が生まれる確率
生まれてくる女の子の赤ちゃんのうち、約1,000人に1人の確率でトリプルX症候群であるとされていますが、その症状の少なさから特に検査をすることなく、トリプルX症候群だと気づかず生涯を送る方が大半だと言われています。
高齢出産とトリプルX症候群の関係
ママの年齢が35歳以上で、はじめて出産する場合を一般的に「高齢出産」といいます。
ダウン症などの染色体異常は、高齢出産になるほどその発生頻度は高くなりますが、トリプルX症候群も同様に高くなります。
女性の出産年齢が高くなると胎児の染色体異常が起こる確率が高くなる原因は、卵子が作られる過程で細胞分裂のエラーがおこりやすくなることにあります。
遺伝するのか
染色体異常と聞くと、遺伝するのではと思われるかもしれませんが、そのほとんどは遺伝ではなく偶然に起こります。
トリプルX症候群も両親や環境のせいではなく、誰にでも起こりうると言われています。
先に生まれたきょうだいがトリプルX症候群だからと言って、次に生まれる子に影響はほとんどの場合ありません。
検査
生まれる前の出生前診断でトリプルX症候群だと発覚する場合もありますが、生まれた後、ある程度成長してから特徴的な能力の遅れなどから何らかの疾患を疑い、検査して初めて発覚する場合もあります。
それでも、症状がないことや軽いことも多く、検査をしなかった場合一生わからないままの方が大半だと言われています。
診断には血液検査により染色体の分析を行います。
出生前診断
ダウン症などの染色体異常を調べるために受けた出生前診断(出生前検査)で、思わず発覚することがあります。
その多くは羊水検査によって見つかります。
新型出生前診断(NIPT)を行っている一部の施設では、トリプルX症候群も検査対象に含まれます。
これは非確定検査で、「トリプルX症候群の可能性があるかどうか」が分かります。
本当にトリプルX症候群かどうか?を調べるためには、羊水検査もしくは絨毛検査を受けます。
出生後の検査
後天的にトリプルX症候群になることはありませんが、成長とともに言葉や運動能力の遅れなどからその疑いが持たれることがあります。
診断は血液を検査することによって行いますが、何らかの染色体異常を疑って調べないと発覚しないでしょう。
なぜなら小児期に言葉や運動の遅れが出ても、それがただの個人差なのか染色体異常によるものなのか医師でも分からないことも多くあり、関連を考えないと検査をしないからです。
トリプルX症候群だと発覚したのがある程度成長してからだった場合、本人およびそのご家族も驚き不安になることだと思います。
そのような場合もかかりつけのお医者さまと相談しながら、場合によっては遺伝カウンセリングを受けて、本人に告知するタイミングなど見計らうのがよいでしょう。
出生前診断でトリプルX症候群と分かったら
出生前診断でダウン症などの染色体異常が発覚した場合、中絶を選択する人が多いことについて議論がつきませんが、トリプルX症候群は生きていくうえで重篤な症状があるわけではなく、多くの人はトリプルX症候群だと一生気づかないほどです。
間違っても、思わぬ疾患名を告げられて気が動転し、冷静でない判断をしてしまわないよう、正しい情報を得る必要があります。
染色体の疾患については、遺伝医学に関する専門家である「臨床遺伝専門医」や「遺伝カウンセラー」というプロがカウンセリングを行っていますので、相談してみるのもいいでしょう。
就学・就労
就学については学業に大きな問題はなく、普通の学校に通っています。
ただし、言語障害や何らかの行動的問題がある場合は療育が必要になります。
トリプルX症候群だと周囲の人に伝える必要はありませんが、明らかな学習障害などがある場合はサポートを得るためにも説明が必要でしょう。
就労についても同様で、一般の人と同じように働いている人が多いようです。
まとめ
トリプルX症候群だと診断されている人は全体の約30%程度だと言われ、多くの人は一生気づきません。
生まれる前の出生前診断で発覚することもありますが、症状の有無や程度までは分かりません。
ですが、起こりやすい症状が分かっていれば早めの対応が可能になります。
生まれる前にトリプルX症候群だと分かると、どんな疾患か分からず不安になるでしょうが、まずは一人で抱え込まずに遺伝カウンセラーなどの専門家に相談してみるのがよいでしょう。
トリプルX症候群に対する正しい知識を持つことによって、必要以上の不安を減らすことができるのではないかと思います。