妊娠中毒症とは「妊娠高血圧症候群」のことで、昔はそのように呼んでいましたが20年ほど前に名称変更されました。
この記事では、妊娠中毒症が何であるか、その症状、母体と赤ちゃんへの影響、そして予防策について詳しくご紹介しています。
妊娠中毒症とは?
妊娠中毒症は主に妊娠後期に起こる病気で、「高血圧」「タンパク尿」「浮腫(むくみ)」のどれかの症状があれば、妊娠中毒症と診断されていました。
その名前の響きの通り妊婦に特有の病態で、初期は自覚症状はありませんが治療をせずに放置して重症化すると妊婦さんとおなかの赤ちゃんの命にかかわるため早期発見・早期治療が重要です。
【妊娠中毒症とは】
以下のいずれかの症状がある
- 高血圧
- タンパク尿
- 浮腫(むくみ)
妊娠高血圧症候群に名称変更した経緯
現在では「妊娠中毒症」という言葉は使われず、「妊娠高血圧症候群」と呼ぶようになりました。
なぜかと言うと妊娠中の高血圧、タンパク尿、むくみといった症状は「中毒」という言葉が暗示するような中毒成分によるものではないことを明確にするためです。
このような症状が起こるのは、妊娠による血液成分の変化によって血管が収縮し傷つきやすくなることや、血液が固まりやすくなることで高血圧の状態が続くために引き起こされることが分かってきました。
つまり、高血圧になることが従来の「妊娠中毒症」が起こる主体であると明らかになったため、「妊娠高血圧症候群」と名称が変更されたのです。
妊娠高血圧症候群と妊娠中毒症の症状
妊娠高血圧症候群の診断基準は妊娠中毒症と少し異なります。
【妊娠高血圧とは】
- 妊娠20週~分娩後12週までの間に高血圧が見られる
- その血圧は収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上
- 妊娠前は高血圧ではなかった
これに加えて、タンパク尿がある場合は「妊娠高血圧腎症」と診断され、厳重な管理と治療が必要になります。
なお、むくみは妊娠中に一般的にみられるため、妊娠高血圧症候群では診断基準から外されました。
高血圧
高血圧になっても初期は自覚症状がないため妊婦健診でチェックすることが大切です。
【血圧の分類】
- 正常 :130 / 85mmHg未満
- 高血圧:140 / 90mmHg以上
- 重症 :160 / 110mmHg以上
正常と高血圧の基準値は、妊婦以外の一般の人と同じです。
高血圧で血管に負担がかかり続けると腎臓など全身の臓器障害を伴うこともあり、死産の原因にもなります。
重症例ではただちに降圧治療を開始する必要があります。
タンパク尿
タンパク尿とは、異常な量のタンパク質が尿として排出されてしまう状態です。
尿中にタンパクが1日あたり0.3g以上出るとタンパク尿と認められ、これは腎臓の機能障害の指標とされています。
タンパク尿があると「妊娠高血圧腎症」とされ、高血圧の結果、腎臓に影響が出ている状態です。
浮腫(むくみ)
妊娠中は循環血液量が増えることや、大きくなったお腹の赤ちゃんに圧迫されることで血圧に関係なく常にむくみやすい状態となっています。
そのため妊娠中毒症では診断基準のひとつであった「むくみ」は新基準では外されました。
子癇発作
妊娠中にけいれんや意識消失が起こることを子癇(しかん)といいます。
子癇は妊娠20週以降にはじめて起きたけいれん発作のことを呼び、てんかんや脳炎など明らかな原因がある場合は除きます。
昔はよくみられた症状のため妊娠中毒症の診断基準の一つとされていましたが、最近では妊婦健診による管理が良いためか日本では2,500人に1人程度の発症頻度です。
目がチカチカしたり、頭痛やめまい、みぞおちの痛みなどの症状は子癇発作の予兆の可能性がありますので、心当たりがある方はすぐに医師にご相談ください。
母体と赤ちゃんに与える影響
血圧が高い状態が続くと妊婦さん自身とおなかの赤ちゃんの両方に、軽い症状から命に関わる深刻な症状までさまざまな問題が起こる可能性があります。
母体への影響
高血圧が続くと以下のような症状があらわれてきます。
【妊娠高血圧症候群の症状と合併症】
- みぞおちが痛い
- 胃が痛い
- 強い頭痛
- 目がチカチカする
- 一時的に目が見えづらい
- 嘔吐
- けいれん
- 片麻痺
- 意識障害
- うまくしゃべれない
- 血が固まりにくい
- 脳出血
- 肝機能障害
- 腎機能障害
高血圧により、脳出血や網膜障害のリスクが高まります。
また腎臓への負担が増加し、急激な腎機能障害を引き起こすこともあります。
さらに、肝機能障害やHELLP症候群(溶血、肝酵素上昇、低血小板血症)などの重篤な状態に至ることもあります。
重度の妊娠高血圧症候群は母体の命を脅かすことさえあり、迅速な医療介入が必要です。
胎児発育不全
妊娠高血圧症候群は胎児の成長にも影響を及ぼします。
妊婦さんの高血圧はおなかの赤ちゃんへの十分な影響補給と酸素供給を妨げ、胎児発育不全のリスクを高めます。
胎児発育不全では妊娠週数に対して赤ちゃんの成長が悪くなり十分に育つことが出来ず、低出生体重児として生まれるリスクのほか、死産や新生児死亡につながる恐れもあります。
赤ちゃんの将来の生活習慣病リスク
胎児期に十分に育つことができず小さく低出生体重児で生まれた赤ちゃんは、成人後に生活習慣病を発症するリスクが高くなることが示唆されています。
これは胎児期に低栄養状態で過ごしたことで、少ない栄養でも生きていける体質になってる可能性があるためです。
なりやすい人の特徴
妊娠高血圧症候群は妊婦さん10人に1人くらいの頻度で起こり、妊娠すると誰しもそのリスクがあります。
その中でも以下の特定の条件や遺伝的な要因がある人は、妊娠高血圧症候群になりやすいといえます。
【妊娠高血圧症候群になりやすい人の特徴】
- 肥満:BMI25以上
- 妊娠中に急激に体重増加した
- 痩せすぎ
- 高齢出産:35歳以上での初産
- 多胎妊娠:双子以上
- はじめての妊娠
- 家族に高血圧の人がいる
- 腎臓や心臓に持病がある
- 過去の妊娠で妊娠高血圧症候群になった
妊娠前から太っている人や妊娠中に必要以上に急激に体重が増加した人は、全身に血液を巡らせるために心臓が強い圧力で血液を送り出そうとするため高血圧になりやすい状態です。
反対に妊娠前から痩せすぎている人も、妊娠による体の変化率が大きくその分負担がかかりやすいためリスクが高くなります。
高齢妊娠では見た目は若くても加齢により体の内側の様々な機能に変化が起こり、血管の老化もその一つです。
双子や三つ子などの多胎妊娠は循環血液量が増えるため、妊娠高血圧症候群の頻度は単胎妊娠と比べておよそ3倍高くなります。
これらの特徴を知ることは、妊娠中の女性が自身のリスクを理解し、必要に応じて予防策を講じるのに役立ちます。
治療法
妊娠高血圧症候群の治療は、症状の重さや妊娠週数、母体と胎児の健康状態によって異なります。
初期の症状がない頃は生活指導や食事指導を受けて経過観察とします。
安静にすると血圧が下がりやすくなるため、適宜そのように指導されます。
重度の場合は降圧薬によって血圧をコントロールしつつ、場合によっては入院が必要になることもあります。
それでも母体や胎児の健康に深刻な影響を及ぼす恐れがある場合、早期分娩が選択されることがあります。
食事と生活習慣-予防のためにできること
妊娠高血圧症候群を予防するためには適切な食事と生活習慣の維持が重要で、これは妊婦さん自身の健康とおなかの赤ちゃんの健やかな成長のためにも役立ちます。
【妊娠高血圧症候群の予防のためにできること】
- 塩分を控える
- 体重の管理
- 妊婦健診をしっかり受ける
塩分を控える
減塩によって血圧が下がるという有効性は証明されてはいませんが、妊娠中は体に水分が溜まりやすい状態で塩分を摂り過ぎるとさらにむくむ原因となりますので、適切な量を心がけましょう。
加工食品やコンビニ食、外食はどうしても塩分が多くなりがちです。
旬の食材のうまみを活かした手料理のバリエーションを増やすことで、塩分を抑えつつ食事を楽しむことができます。
体重管理
妊娠するとお腹の赤ちゃんの重さに加えて、胎盤や羊水などを合わせて最終的に少なくとも7-8kgは体重が増加します。
妊娠前の体格によって推奨体重増加量は異なりますが、大切なのは必要以上に増えすぎない、増えなさすぎないことと、急激に変化しないということです。
自分の体だけではないので体重の管理も大変ですが、定期的に測定してしっかりコントロールしたいですね。
妊婦健診でしっかりチェック
妊娠高血圧症候群は初期の段階では症状がないため、定期的なチェックで早期発見・早期治療を行うことが大切です。
妊婦健診では血圧測定や尿検査のほか、すねを押してむくみのチェックなども行います。
まとめ
妊娠中毒症 / 妊娠高血圧症候群は初期では自覚症状はないものの、重症化すると母子ともに重大な影響を及ぼす可能性があるため、妊婦健診によって早期発見に努めることが大切です。
妊娠中は妊婦健診によって指導される適切な体重増加量を目指して、健やかな妊娠生活をお送りくださいね。
【参考】