
妊娠初期に突然性器からの出血があると、おなかの赤ちゃんに何かあったのかと驚き動揺してしまうかもしれません。
しかし、すべての出血がすぐに深刻な問題を意味するわけではないことを知っておくことが大切です。
妊娠初期には、女性の体内で様々な変化が起こるため、この時期の出血にはさまざまな原因が考えられます。
なかには、全く無害で自然な現象から、深刻な問題への警告サインまで、さまざまな出血のパターンが存在します。
このコラムでは、妊娠初期の出血の一般的な原因について、心配のない出血とトラブルによる出血とに分けて解説しています。
妊娠初期の出血の一般的な原因

妊娠すると女性の体にはホルモンバランスや体調などさまざまな変化が起こり、ちょっとした刺激や妊娠による変化で出血しやすくなることがあります。
「不正出血」とは、生理以外の原因で性器から出血することをいい、妊娠に関係するものや妊娠には直接関係しないもののその年代の女性に起こりやすいものなどがあります。
不正出血があった場合は、1)状態、2)色、3)量、4)出血期間、を把握して、医師に伝えられるようにしておきましょう。
妊娠初期のあまり心配のない出血
妊娠初期には、着床出血や子宮膣部びらん、ポリープなどにより軽度の出血が見られることがあります。
これらは通常、深刻な問題ではなく、一時的なもので終わることがほとんどです。
【妊娠初期のあまり心配のない不正出血】
- 着床出血
- 子宮膣部びらん
- 子宮頸管ポリープ
- 性行為や内診による出血
このような原因の場合はあまり心配はいりませんが、症状だけで原因を自己判断することは危険ですので、出血があったら妊婦健診の際に必ず医師に報告するようにしましょう。
また、おなかの張りや痛みがある場合や、出血量が多い、出血がだらだらと続く場合はすぐに医師にご相談ください。
着床出血
妊娠したサインの一つに「着床出血」があります。
着床出血は精子と卵子が出会ってできた受精卵が、子宮内膜に定着するときに少量の出血が起こることをいいます。
タイミングとしては、「前回の生理が始まった日からおよそ3週間~4週間後」で、「性行為からおよそ7日~10日後」になります。
着床出血は必ずしも起こるわけではなく、妊娠した女性の25%以下の頻度だといわれています。
子宮膣部びらん

子宮膣部びらんとは、子宮の入り口近くにある部分(膣部)が赤く見える状態を指します。
「びらん」とはただれていることを意味しますが、実際にただれていることはほとんどなく、炎症が起こっているように見えるだけです。
女性ホルモンがたくさん分泌されている時期に起こる現象で、生理のときは約8~9割の女性に見られ、これ自体は異常ではなく特別な治療を必要としません。
妊娠初期も女性ホルモンの分泌量が増えるため子宮膣部びらんが起こりやすく、おりものが増えたり、ちょっとした刺激で出血することがありますが、検査で細胞に異常がなければ経過観察となります。
子宮頸管ポリープ

子宮頸管ポリープとは、子宮の出口である子宮頸管にできるポリープ(良性の腫瘍)のことです。
ポリープから出血しても痛みを伴わず無症状のことが多いですが、ときには性交痛や排便痛などを引き起こすことがあります。
妊娠中に子宮にポリープを発見した場合、基本的には切除せず経過観察とします。
性行為や内診による出血
性行為による刺激や、内診での刺激が原因で少量の出血があると、茶色やピンク色のおりものが出ることがあります。
少量ですぐに治まるようであればあまり心配はいりませんが、ヒリヒリと痛みがあるときは感染症予防のためにも受診して診てもらった方がよいでしょう。
妊娠初期のトラブルによる出血
継続できない妊娠や、妊娠によるトラブル、病気が原因で不正出血が起こることがあります。
初期では出血以外に自覚症状がない場合もあり、症状や出血の有無だけでは心配のない出血なのかトラブルによるものなのか判断が難しい場合があります。
【トラブルによる不正出血の原因】
- 子宮外妊娠
- 絨毛膜下血腫
- 切迫流産
- 胞状奇胎
- 子宮頸がん
子宮外妊娠や胞状奇胎は妊娠の確認で受診した際に分かります。
少量の出血はよくあることですが、何が原因の出血か自分では判断できませんので、落ち着いて色や量を確認しましょう。
特に鮮やかな色の血が出る場合や量が多い場合、おなかの痛みが強い場合はすぐに受診してください。
子宮外妊娠

「妊娠」とついていますが、子宮外妊娠(異所性妊娠)とは受精卵が育つことができない場所に着床することをいい、残念ながら妊娠を継続することはできません。
子宮外妊娠を起こしやすい人の特徴としては、子宮や卵管の手術や帝王切開の経験がある人、性感染症にかかっている人、喫煙者などが挙げられます。
妊婦さんのおよそ100人に1人の割合で子宮外妊娠が起こっているといわれています。
絨毛膜下血腫
絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)とは、絨毛膜と子宮内膜との間に血液が溜まりかたまりとなった状態を指し、妊娠初期から中期にかけてよく見られます。
不正出血やお腹の張りがあるケースと、自覚症状がないケースがあります。
ほとんどの場合は妊娠中期までに血腫は自然消滅しますが、大きい場合は流産のリスクがあります。
切迫流産
切迫流産とは、「流産が切迫している」状態、つまり流産はしていないものの性器出血や下腹部の張り、痛みなどがあり、流産のリスクがある状態のことをいいます。
初期は痛みを感じず出血することも多くありますが、痛みがないからといって安心せず、医療機関への相談が大切です。
切迫流産と診断されても必ずしも流産になるわけではなく、その7割くらいは無事に出産しています。
胞状奇胎

異常妊娠の一つである胞状奇胎(ほうじょうきたい)は、胎盤をつくる絨毛組織の一部が異常に増殖したものです。
受精の段階で一つの卵子に複数の精子が入ってしまうことなどが原因で起こります。
症状としては不正出血のほかつわりのような激しい吐き気や嘔吐があり、妊娠確認のための婦人科受診の際に超音波検査で分かります。
妊娠検査薬で陽性反応を示すものの、残念ながら妊娠の継続はできず、流産の手術と同様に子宮内容物の除去を行います。
子宮頸がん

子宮がんは「子宮体がん」と「子宮頸がん」がありますが、子宮体がんは40代以降の比較的高い年齢の方に多く見られます。
一方で、子宮頸がんは20~30歳代の若い女性に多く、日本国内では毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかっています。
性的接触などによりウイルスに感染することが原因で、ワクチンによって予防することができます。
早期では痛みなどの自覚症状はほとんどありませんが、進行すると不正出血や異常なおりもの、下腹部痛などが続いたりします。
生理だと思っていたら妊娠していた?
「生理がきたと思っていたら実は妊娠していた!」という話を聞くことがあります。
これは、実は「着床出血」などが原因で出血が起こることがあるためです。
生理とは異なり、この出血は少量で短期間しか続かないことが多く、また色も生理とは異なることがあります。
しかし、これらの微妙な違いに気付かないまま、誤ってそれを生理と思い込むことがあります。
着床出血と生理を見分けるポイントとしては、上記のように1)出血量の違い、2)出血する期間の違い、3)色の違い、があります。
そもそも生理にも個人差がありますので一概には言えませんが、着床出血の場合は「いつもの生理となにか違う?」と感じることが多いようです。
どのような出血があったら病院へ行くべきか?
ただでさえ精神的にも敏感になっている妊娠初期に、不正出血があると不安になりますね。
妊娠初期における出血の場合、以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 出血量が多い:生理と同じ程度、またはそれ以上に出血が続く場合は、すぐに医療機関へ行くべきです。
これは、切迫流産や子宮外妊娠などの可能性を示しているかもしれません。 - 痛みを伴う出血:生理痛に似た下腹部痛や腰痛を伴う出血も注意が必要です。
これらの症状も子宮外妊娠や切迫流産の可能性を示す場合があります。 - その他の症状:出血の他にめまいやふらつき、立ちくらみなどの全身症状を伴う場合も、すぐに医療機関に相談してください。
これらの症状が無くても、何かおかしいと感じたら、すぐに医師に相談することが重要です。
まとめ

妊娠初期の出血は、驚きや心配を引き起こすことがありますが、すべての出血が深刻な問題を示すわけではないことを理解することが大切です。
あまり心配のない出血がある一方で、一部は深刻な病状のサインかもしれません。
出血の色や量、症状を観察し、必要に応じて医療機関へ相談することが重要です。
妊娠は女性の体に多大な負担をかけます。
そのため、体調管理に十分な注意を払い、自分自身を大切にしながらご自身の体の声に耳を傾けることも大切です。