中絶を選択するか迷うとき、それぞれの方が抱えている事情があるため「これが正解」というものがありません。
簡単に決断できる問題ではないため時間をかけてじっくり考えたいところですが、いつまで中絶は可能なのでしょうか?
また期間内であれば誰でも人工妊娠中絶手術を受けることができるのでしょうか?
もし中絶をする場合、誰にも知られずに中絶はできるのか?費用はどれくらいかかるのか?保険はきくのか?また、一度中絶をするとそのあと妊娠しにくくなったりしないのか?不安はつきません。
今回は、中絶に関する基本的な情報をまとめてご紹介しています。
中絶(人工妊娠中絶)とは
中絶(人工妊娠中絶)とは胎児が母体の外に出て、現代の医学では生きることができない時期に取り出すことをいいます。
一般的に「子どもを堕ろす(おろす)」とも表現されます。
中絶に関することは「母体保護法」という法律によって、中絶手術ができる期間や実施できる医師などについて定められています。
そのため海外では薬によって中絶が可能な国もありますが、日本では使用も輸入も認められていません。
中絶はいつまで可能か
【人工妊娠中絶の期限と妊娠週数】
中絶を行えるのは「妊娠22週未満(妊娠21週6日)」と母体保護法によって定められています。
これは、「胎児が母体外で生命を保続することのできない時期」が妊娠22週未満とされているためです。
最後に生理が始まった日から、5か月半程度経った頃が人工妊娠中絶の期限になります。
「妊娠22週」は妊娠中期である妊娠6か月にあたり、おなかの赤ちゃんは手足を自由に動かしておなかを蹴ったりするため、ほとんどの妊婦さんは胎動を感じるようになっています。
それほどおなかの赤ちゃんは成長していますので、妊娠22週を過ぎると母体へのリスクや倫理的な問題などから中絶は認められていません。
中絶手術が可能な期間の中でも妊娠12週未満を「初期中絶」、妊娠12週~22週未満を「中期中絶」といい、法律上の扱いや手術方法などが変わります。
妊娠12週を過ぎると死産届が必要になり心身ともにより母体への影響も大きくなるため、望まない妊娠の場合は妊娠12週より前に中絶手術を受けることが妥当だとされています。
妊娠週数の数え方
妊娠の開始は「最後に生理が始まった日」を「妊娠0週0日」として数えます。
次の生理が遅れていることで多くの人が「あれ?もしかして妊娠?」と気づきますが、この頃はすでに妊娠4~5週になっています。
妊娠の開始は性行為をした日だと思っている方が多いのですが、妊娠期間の数え方としては少し違うことに注意が必要です。
日本の中絶件数
日本では毎年14~16万件程度の人工妊娠中絶手術が実施されています。
厚生労働省によると、令和4年度(2022年)の出生数は770,759人だったのに対し、同年の人工妊娠中絶は122,725件でした。
令和4年度の人工妊娠中絶件数を年齢階級別にみると、一番多いのは20~24歳だということがわかります。
【令和4年度の人工妊娠中絶件数(件)と実施率(女子人口千対)】
各年代の女子人口を用いて実施率を算出すると、女子人口千対あたりの割合は以下グラフのようになり、やはり最も多いのは20~24歳だということが分かります。
【令和4年度の年齢階級別にみた人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)】
中絶の条件
中絶は妊娠22週未満であれば誰でも受けられるわけではなく、その条件が母体保護法によって定められています。
【中絶の条件】
- 母体の健康上、妊娠の継続または分娩が困難
- 経済上の理由がある
- 暴行もしくは脅迫によって抵抗・拒絶ができなかった
妊娠していることが母体の健康や命にかかわる場合や、経済的に妊娠・出産が困難な場合、強姦やレイプなどで拒絶できなかった場合などが当てはまります。
なおその他の条件については、次の「母体保護法」の項目をご参考にしてください。
母体保護法
母体保護法は、母体の命と健康を守ることを目的として、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する事項が定められています。
ここでは母体保護法の人工妊娠中絶についてのみ解説しています。
【中絶の定義】
”人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその付属物を母体外に排出することをいう。”
この「母体外で胎児が生命を保続することのできない時期」というのが妊娠満22週未満のことで、「胎児の付属物」というのは胎盤や卵膜、臍帯や羊水のことです。
【中絶手術を行える医師】
医師会によって母体保護法に基づいて指定された指定医師が中絶手術を行うことができます。
【中絶の条件】
前項のように、誰でも受けられるわけではなく女性の権利に基づいて人工妊娠中絶の条件が定められています。
【配偶者の同意】
母体保護法の第14条によると、”。。。本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。”とされています。
さらに、”配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときには本人の同意だけで足りる。”とされており、基本的には配偶者(またはパートナー)の同意が必要になります。
配偶者の同意については後述の「誰にも知られずに中絶ができる?」の項目もご参考にしてください。
【参照元】母体保護法 / 日本産婦人科医会
堕胎罪:薬による中絶の禁止
堕胎(だたい)とは、広い意味では中絶のことですが、多くの場合は非合法に行われる中絶のことをさします。
母体保護法によって定められた条件以外で中絶を行うと、行なった人も受けた人も「堕胎罪」という刑法により罰せられます。
【堕胎の罪】
妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する。
海外では薬による中絶(経口中絶薬)が可能な国もありますが、日本では法律により禁止されています。
日本でも経口中絶薬の使用の承認申請がされていますが、2022年6月現在は認められておらず、個人輸入も禁止されており、薬による中絶を行なうと堕胎罪で罰せられます。
【参照元】刑法 | e-Gov法令検索
中絶手術の方法
中絶手術の方法は主に3種類あり、妊娠週数や病院の方針などによって変わります。
妊娠12週未満までを「初期中絶」、妊娠12週~22週未満までを「中期中絶」とし、胎児が大きくなる中期中絶では人工的に陣痛を起こして通常の分娩と同じような形式で取り出します。
病院で妊娠の確定ができるのは胎児心拍と胎嚢(たいのう)が確認できるようになる妊娠6~7週頃です。
これは次の生理予定日を2~3週間ほど過ぎた頃になります。
やむを得ない事情で中絶手術を受けると決めている場合はできるだけ早い方がよく、初期中絶の中でも妊娠が確定した妊娠6週~妊娠10週未満までが胎児の大きさを考えて母体へのリスクや負担が比較的少ない時期とされています。
また妊娠12週以降の中期中絶になると入院設備が整った病院での手術が必要になるため、初期中絶しか対応していないクリニックや病院が多く、それだけ手術が受けられる施設が限られてきます。
初期中絶
初期中絶は妊娠11週6日までの妊娠初期に行なわれる中絶手術のことで、妊娠3か月までの期間です。
【初期中絶の特徴】
- 麻酔使用でほとんど痛みなし
- 日帰り手術
- 手術時間が短時間
- 翌日から通常の生活
- 死産届は必要なし
- 埋葬の必要なし
手術の方法は「吸引法」または「掻把法(そうはほう)」にて行なわれます。
【吸引法】
吸引法とは、膣から挿入した吸引器で子宮内の胎児や胎盤などを吸い出す方法です。
日帰りが可能で、吸引時間はおよそ5分程度です。
麻酔が効いている間に終わるため痛みはほとんどなく手術時間が短時間のため体への負担も少なく、翌日から仕事復帰することも可能です。
初診での手術が可能なクリニックもありますが、多くは初診日に検査を行なって後日の手術になります。
【掻把法】
掻把法(そうはほう)とは、ハサミやスプーンのような形状の器具を用いて子宮内の胎児や胎盤などを掻き出す方法です。
昔から行なわれている方法ですが、子宮内膜に傷がついたり大量出血のリスクが高くなるため、現在では吸引法が主流となっています。
手術前に子宮の出口を広げる処置をするため、吸引法に比べて手術時間が長くなります。
中期中絶
中期中絶は妊娠12週から妊娠21週6日までの妊娠初期~妊娠中期に行なわれる中絶手術のことで、妊娠6か月の途中までの期間です。
【中期中絶の特徴】
- 入院手術
- 分娩法
- 通常の生活まで数日かかる
- 死産届の義務
- 埋葬が必要
妊娠12週になると胎児は小さめのみかん程度の大きさに成長しており、頭や胴体、足の形がはっきりと分かるようになっています。
中期中絶では子宮収縮薬で人工的に陣痛をおこし、通常の分娩と同様の方法で行なわれます。
手術前の処置として、子宮の出口を広げて柔らかくするために子宮頸管拡張剤を膣から挿入します。
そのため前日から入院する必要があります。
手術の後は数日程度で社会復帰できます。
妊娠12週を過ぎると死産届の提出と埋葬する義務があります。
手術して1週間以内に死産届を役所に提出しなければなりません。
中期中絶では初期中絶に比べてより精神的にも身体的にもそして経済的にも負担が大きくなります。
なお胎児の大きさや病産院の方針によっては中期中絶でも吸引法が可能なこともあります。
中絶手術の費用
中絶手術は保険が適用されないため、自費診療となります。
妊娠週数や手術を行うクリニックや病院によっても異なりますが、費用はだいたい以下のようになります。
【中絶手術の費用相場】
- 初期中絶:10~15万円程度
- 中期中絶:30~45万円程度
胎児が大きくなるとそれだけ手術が難しくなるため、特に中期中絶は妊娠週数が進むにつれて費用も高額になるのが一般的です。
なお妊娠12週以降の中期中絶の場合、健康保険に加入している方は「出産育児一時金」制度が適用されるため、術後に申請することで40万円程度が支給されます。
誰にも知られずに中絶ができる?
さまざまな事情で「中絶のことを誰にも知られたくない。。。」という場合、それが可能なのでしょうか?
前述の母体保護法では次のように解釈することができます。
【母体保護法による配偶者の同意について】
- 配偶者(パートナー)の同意が必要である
- 配偶者が意思表示できない、亡くなっている場合は必要ない
- 配偶者の同意も必要だが、最終的には女性の意思を優先する
- 配偶者が知れないときはその限りではない
ここでいう配偶者とは、事実婚と同様な事情にあるものを含むとされているため、未婚でも基本的にはパートナーの同意が必要になります。
未成年については同意書の要否について明記はされていません。
それでも多くのクリニックや病院では原則としてご本人とパートナーの同意書、未成年の場合は親や保護者の同意書の提出を求められます。
しかし、未成年でも性犯罪による妊娠など特別な事情がある場合は同意書なしで中絶手術を受けることが可能な場合もあります。
同意書については中絶を受けたい方のさまざまな事情と病院の方針によって異なりますので、いずれにしてもまずはお電話などで相談してみることをおすすめします。
中絶後は妊娠しにくい?
中絶を一度すると希望するときに妊娠しにくくなったり不妊になるのでは?と不安になるかもしれませんが、手術中に子宮を傷つけてしまうなどのトラブルがなければほとんど心配はいりません。
手術後およそ1週間後の検診で炎症がおこったり感染症にかかったりしていないか状態を確認して次の妊娠への影響がないようにします。
中絶手術後はおよそ1ヵ月程度で生理がきます。
出産と中絶を迷っている場合
思わぬ妊娠だった場合、突然のことで産んで育てる決断ができず、中絶をするか迷われることもあるでしょう。
「もしかして妊娠した。。。?」と思った場合、まずは妊娠検査薬で検査をしてみましょう。
妊娠検査薬では陽性(妊娠の可能性あり)反応がでても正常妊娠かどうかは判断できないため、陽性の場合は早めに受診してください。
胎児が育つことができない異常妊娠だった場合、放置すると母体の命にかかわることもあるため、産むか迷っていて決断できない場合でもまずは妊娠を確定させるために受診することをおすすめします。
受診した際に妊娠週数を確認します。
妊娠前に最後にきた生理開始日を妊娠0週0日として数えますが、ご本人の思い違いなどで実際とずれてしまっていることもありますので、その場合は超音波検査で確認します。
もし中絶をする場合は妊娠週数が進むとそれだけ心身および金銭的な負担やリスクが大きくなるため、妊娠9週より前までに決断することが望ましいとされています。
簡単に決断ができることではないため一人で抱え込みがちですが、まずは受診してご相談ください。
出生前診断における中絶
出生前診断とは、妊娠中におなかの赤ちゃんについて何らかの先天性の病気がないかを調べる検査のことで、羊水検査や新型出生前診断(NIPT)などをさしますが、広義には妊婦健診で行なわれる超音波検査(エコー検査)も含みます。
本来これらの検査は生まれる前に病気や障害を見つけて安全に出産できる環境を整えたり、生まれてからの治療や環境づくりにつなげるためのものです。
しかし特に新型出生前診断(NIPT)では、検査によって胎児に染色体異常が見つかった際に中絶を選択するカップルが多いことについて「命の選別につながり倫理的問題がある」とした議論が続いています。
人はそれぞれの人生観や価値観があり、生活環境や置かれている社会的状況も異なるため、正しい情報のもとで下した決断であれば、それはご本人たちにとって納得できる答えなのかもしれません。
出生前診断を受けるか迷うとき、あるいは受けた結果で悩むときは、遺伝医学の専門家である「遺伝カウンセラー」に相談することもできます。
まとめ
中絶が可能な期間は妊娠22週未満で、最後に生理が始まった日から約5ヵ月半が経った頃です。
しかしその頃になると胎動を感じるほど胎児は成長していますので、中絶手術は出産と同様の方法で行なわれ、初期の中絶と比べると難しい手術で費用も高く精神的にもより負担が大きくなります。
もし中絶を迷う場合、妊娠が発覚した時点でまずは婦人科を受診してご相談ください。
妊娠が正常かを確認するとともに、今後いつまでにどのような決断をしなければならないかなどを教えてくれます。
簡単にはできない決断だからこそ、できるだけ早く専門家に相談して正しい情報の元で考えることができるようにしてくださいね。