NIPTの検査は、検査精度が高いということもあり大変注目を集めています。
しかし、NIPTの検査精度は100%正確に疾患や疾患でないことを判別できるわけではありません。
疾患があったとしても陰性と判定されたり、疾患がなくても陽性と判断されることもあります。
そこで、NIPTの検査精度(数値)に着目しながら、よく目にする感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率といった語句などを、できるだけ簡単にそしてわかりやすく解説したいと思います。
4つに分類される検査結果
NIPTの検査結果は、まれに、「検査不能」として報告がされることがありますが、「陽性」または「陰性」として報告されます。
この検査結果の「陽性」と「陰性」は、それぞれ2つの結果に分類され、検査結果は合計4つに分類されることになります。
以下に、検査結果の4つの分類の内容を順に説明していきます。
NIPT検査の精度は高いことが知られており、
- 胎児に疾患があるので陽性(真陽性)として報告される場合(①に該当)
- 胎児に疾患がないので陰性(真陰性)として報告される場合(④に該当)
といったように、正しく高精度で判定ができることに注目が集まっています。
しかし、NIPTの検査は高精度といえ、「陽性」「陰性」を100%正確に判定できるわけではありません。
NIPTの検査に限ったことではありませんが、
- 胎児に疾患があるのに陰性(偽陰性)として報告される場合(③に該当)
- 胎児に疾患がないのに陽性(偽陽性)として報告される場合(②に該当)
といったように、間違って判定されることがあります。
すなわち、検査結果は、表1の①から④のように4つに分類されます。
【表1】
NIPT検査 | 疾患あり | 疾患なし | (合計数) |
---|---|---|---|
陽性 | ① 真陽性 | ② 偽陽性 | A |
陰性 | ③ 偽陰性 | ④ 真陰性 | B |
(合計数) | C | D |
NIPT検査の偽陽性・偽陰性の原因
NIPT検査において、偽陽性や偽陰性はさまざまな原因によって起こります。
たとえば、検体の母体血に含まれる胎児由来のDNAの量が少ないことやバニシングツインなどの原因で胎児本来のDNAではないものが検査されてること等の理由により、偽陰性・偽陽性の原因となります。
また、検体の取扱いに不備があったり、検査が正しく⾏われなかった場合にも、偽陰性・偽陽性が起こることがあります。
NIPTの検査では、技術上の偽陽性、偽陰性が⽣じないよう、さまざまな対策を講じています。
適切な基準を満たす検査施設で、性能を担保された機器や試薬を⽤い、専⾨職である臨床検査技師が検査を担い、加えて、検査精度保証⽤試料を同時に分析することなど、いろいろな対策を行うことで高い精度の維持に努めています。
感度と特異度
検査精度を評価する指標に、感度(sensitivity)と特異度(specificity)というものがあります。
感度
病気にかかっている人のうち、正しく陽性と判定される割合のことを感度と言います。
特異度
病気にかかっていない人のうち、正しく陰性と判定される割合のことを特異度と言います。
信頼性の高いNIPT検査とは?
一般的には、感度と特異度が高い検査は信頼性が高いとされており、NIPT検査においても同様です。
感度が⾮常に⾼い検査は疾患を⾒逃すことはまれです。
このため陰性結果で病気を否定するために優れた検査と⾔えます。
⼀⽅、特異度が⾮常に⾼い検査は偽陽性がまれなので、結果が陽性であれば⽬的とする病気であると診断するのに適した検査といえます。
NIPTの検査会社は、NIPTの検査精度を示すために、各疾患に対する感度と特異度を公表しています。
ここで少し注意が必要なことがあります。
それは、「NIPTの検査が陽性判定だったからといって、必ずしも実際に胎児に疾患がある可能性が高いわけではない。」ということです。
2つの的中率とは?
・検査結果が陽性のときにどれだけ病気であることが正しく判定出来るか?
・検査結果が陰性であればどれだけ病気でないことを正しく判定出来るか?
NIPT検査においても、この2つはどちらも重要なポイントです。
正しく判定できる割合を「的中率」(適中率と表記されることもあります)と呼んでおり、的中率には、「陽性的中率」と「陽性的中率」があります。
陽性的中率(PPV)
陽性的中率(Positive Predictive Value, PPV)とは、検査で陽性と判定された人のうち実際に病気にかかっている人の割合のことを言います。
陰性的中率(NPV)
陰性的中率(Negative Predictive Value, NPV)とは、検査で陰性と判定された人のうち実際に病気にかかっていない人の割合のことを言います。
感度・特異度と陽性的中率・陰性的中率との関係
表1を使って、「感度」・「特異度」と「陽性的中率」・「陰性的中率」との関係をわかりやすく図解してみることにしましょう。
【表1】
NIPT検査 | 疾患あり | 疾患なし | (合計数) |
---|---|---|---|
陽性 | ① 真陽性 | ② 偽陽性 | A |
陰性 | ③ 偽陰性 | ④ 真陰性 | B |
(合計数) | C | D |
感度: ① ÷ C
特異度: ④ ÷ D
陽性的中率: ① ÷ A
陰性的中率: ④ ÷ B
「感度」と「陽性的中率」とを比べてもらうと、分母が違っていることがわかります。
高い精度の検査なのに「陽性的中率」が低い?その理由とは?
NIPTの検査を受検される方々の一番の心配事は、「陽性という判定が出た場合、おなかの胎児に疾患が本当にあるのか?」というこではないでしょうか?
つまり、NIPTの検査を受検される方々の一番の心配事は、「陽性的中率」だといえます。
NIPTの検査は高い精度の検査として知られていますが、この高い精度とは、「感度」と「特異度」のことを意味しています。
では、高い「感度」と「特異度」のNIPT検査であっても、「陽性的中率」が低い!?というのはどういったことなのでしょうか?
言葉で説明するよりも数字を見ていただくほうがわかりやすいので、同じ「感度」と「特異度」のNIPT検査において、「陽性的中率」に大きな違いが出る例を見てみましょう!
疾患Xに対して同じ精度(感度 99%、特異度 99%)の検査で比較
同じ検査であっても、「陽性的中率」は疾患を持つ患者さんの存在割合によって変わってしまうことがわかる例です。
ケース① 50%が疾患ありの集団に行った場合
疾患X検査 | 疾患あり | 疾患なし | (合計数) |
---|---|---|---|
陽性 | 99 | 1 | 100 |
陰性 | 1 | 99 | 100 |
(合計数) | 100 | 100 |
陽性的中率=99% (99÷100)
ケース② 1%が疾患ありの集団に⾏った場合
疾患X検査 | 疾患あり | 疾患なし | (合計数) |
---|---|---|---|
陽性 | 99 | 99 | 198 |
陰性 | 1 | 9801 | 9802 |
(合計数) | 100 | 9900 |
陽性的中率=50% (99÷198)
ダウン症の検査では妊婦さんの年齢が重要に
ダウン症の子が生まれる頻度は、妊婦さんの年齢によって大きく異なることが知られています。(表2)
ダウン症の子が生まれる頻度
30才・・・952人に1人
40才・・・106人に1人
このダウン症の子が生まれる頻度の例のように、30才の妊婦さんと40歳の妊婦さんとでは、疾患を持つ患者さんの存在割合が大きく違います。
そのため、NIPTのダウン症の検査で陽性の判定が出た場合、30才の妊婦さんと40歳の妊婦さんとでは、陽性的中率も大きく変わることになり、注意が必要です。
【表2】
まとめ
「100%陽性、100%陰性」を正確に判別きるNIPT検査は、今のところ存在しません。
染色体の疾患があったとしても陰性と判定されたり、疾患がなくても陽性と判断されることもあります。
「陽性的中率」は疾患を持つ患者さんの存在割合によって変わってしまうことを理解して、検査結果を判断することが重要です。