出生前検査やNIPTに対する考え方や施策は国によって大きく異なりますが、その中でもヨーロッパでは比較的広く普及しており妊婦の選択肢が充実しています。
今回は、ヨーロッパにおけるNIPTの実施状況についてご紹介いたします。
ヨーロッパのNIPT
ヨーロッパではかねてより出生前スクリーニング検査に対しての国家政策が進んでおり、多くの国で国民医療制度の元で妊娠初期のスクリーニング検査が受けられます。
NIPTに対する施策も進んでおり、ベルギーとオランダではすべての妊婦に提供されています。
フランスやスペインなど、そのほか多くのヨーロッパの国々でも出生前スクリーニング検査で高リスクと判定された妊婦に対して、保険適用でNIPTを提供しています。
利用率は25~75%以上と各国の差が大きく、これはサービスへのアクセスの良さやフォロー体制、歴史的・文化的な背景による障害や中絶への考え方が影響しています。
NIPTは13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症)を基本検査としていますが、国によってはそのほか常染色体異数性や性染色体異数性、微小欠失なども調べることができます。
胎児の障害を理由に妊娠週数の制限なく中絶が法律で許されているのは、フランス、オランダ、イギリス、アイスランド、オーストリアなどで、スイスやスウェーデンなどでは妊娠週数に制限はありますがそれが認められています。
ちなみに日本では胎児の障害を理由とした中絶は認められておらず、母体の生命へのリスクがある場合、経済的または社会的理由がある場合に妊娠22週未満においてのみ可能です。(実際は拡大解釈されています)
フランスのNIPT
フランスではNIPTは2011年から導入されており、さらに2019年からは高リスク妊婦のみが対象ですが医療保険適用にて無料で受けられるようになりました。
高リスク妊婦とは、クアトロテスト(母体血清マーカー、妊婦の年齢、NTなどを組み合わせたもの)などで胎児に染色体異常がある確率が高いと判断された場合や、家族歴がある場合などです。
ヨーロッパでは出生前スクリーニング検査が広く一般的に行われており、フランスにおいてもクアトロテストは全妊婦に対して無料で行われています。
フランスでは中絶手術が保険適用で無料であり、さらに胎児の障害を理由に中絶することが認められています。
そのような背景もあり、出生前診断でダウン症と発覚した95%が中絶を選択しているとされています。
イギリスのNIPT
イギリスでは従来より出生前スクリーニング検査が積極的に行われており、国としての取り組みで全妊婦に実施されていました。
その後NIPTの出現で、スクリーニング検査で高リスクと判定された妊婦に対しての二次検査として、NIPTが提供されるようになりました。
2021年からはNIPTとその後の確定検査が無料で受けられるようになり、イギリスでは多くの妊婦がNIPTを受検しています。
イギリスでは胎児の異常を理由とした中絶は合法であり、費用も国の負担で実施されます。
ドイツのNIPT
ドイツでは2012年にNIPTが導入される以前より妊婦に対する公的サービスが充実しており、出生前スクリーニング検査や分娩費用が公的に負担されていました。
さらに2020年からはNIPTも公的保険で受けられるようになりました。
中絶に対する考え方や方針は国によって大きく異なり、ドイツでは歴史的にヒトラー時代の優生学に基づいた思想やキリスト教の影響などにより、1976年までは中絶が禁止されていました。
キリスト教の国では「中絶は殺人である」と考えられていました。
現在では、中絶を考えている妊婦は公認のカウンセリング機関でカウンセリングを受け、その後3日間の待機期間ののちに、妊娠12週までの中絶が可能です。
ベルギーのNIPT
ベルギーは妊娠リスクに関係なくすべての妊婦に対して公費負担でNIPTが提供されている数少ない国であり、保険で償還されます。
そのためNIPTを受検する割合は非常に高く、75%以上の妊婦が受けているといわれています。
ベルギーでのNIPTは13、18、21トリソミー異数性の検査に加えて他の常染色体異数性、性染色体異数性、微小欠失の検査も可能です。
ベルギーでは胎児の異常を理由とした中絶は合法であり、妊娠週数の制限もありません。
オランダのNIPT
オランダではベルギー同様、妊娠リスクに関係なくすべての妊婦に対してNIPTが提供されていますが、その割に受検率は40%とそれほど高くはありません。
理由としては、ベルギーではNIPT費用の全額が償還されるのに対し、オランダでは助成が受けられるものの一部自己負担であることと、歴史的にNIPT導入以前に行っていた胎児スクリーニング検査の普及率も低かったことが考えられます。
文化的および歴史的観点から見ると、ダウン症の子供を産むことに対するかなり肯定的な態度と、妊娠中絶に対する否定的な態度が、NIPT受検率の低さを説明する要因である可能性があります。
オランダでのNIPTは3、18、21トリソミー異数性の検査に加えて他の常染色体異数性、微小欠失の検査も可能ですが、性染色体異数性は分析されません。
NIPTの受検前には、自律的な意思決定ができるようにカウンセリングが妊婦とそのパートナーに提供されます。
オランダでは胎児の異常を理由とした中絶は合法であり、妊娠週数の制限もありません。
そのため中絶が自国では違法であるヨーロッパの国々の妊婦たちが、オランダへ行き中絶をしていたという歴史があります。
一方で、オランダは世界的にみても中絶率の低い国であり、これは性教育の充実が理由として挙げられます。
まとめ
世界的に見ると最も多くNIPTが行われているのは北米で、ヨーロッパが続きます。
国による施策が進んでいる地域では一般企業による検査も充実していることが多く、妊婦は費用やアクセスなどの面でより平等にNIPTを受けることができます。
選択の幅が広がることは好ましいことで、日本でも妊婦さんが平等にNIPTへアクセスでき、正しい情報のもとで、強制されず意思決定ができる体制の強化が期待されます。