
妊娠中にお腹の赤ちゃんの染色体異常を調べる方法の一つにNIPT(新型出生前診断)があります。
NIPTでは、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなどの異常のリスクを判定できるため、近年多くの妊婦さんに選ばれています。
トリソミーは染色体異常の一つで、種類によって影響の程度や生存率が異なります。
このコラムでは、トリソミーの特徴や違い、診断方法についてわかりやすく解説します。
トリソミーとは?

ヒトの染色体は、1番~22番の「常染色体」と、X、Yの「性染色体」から構成され、どの染色体にも異常が発生する可能性があります。
主なトリソミーには、13トリソミー(パトウ症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、21トリソミー(ダウン症候群)があり、それぞれ特有の症状や特徴がみられます。
トリソミーが発生する原因
トリソミーは、受精前または受精時の染色体分裂の異常によって発生します。
主な原因は、減数分裂における染色体分裂のエラー(不分離)です。
通常、精子や卵子が作られる際には、染色体が22本+性染色体(XまたはY)に分かれます。
しかし、減数分裂の過程でエラーが起こると、本来1本ずつ分配されるはずの染色体が2本同じ細胞に残り、受精後に3本となることがあります。
トリソミーの発生率は母親の年齢が上がるほど高くなり、特に35歳以上ではそのリスクが大きくなることが知られています。
また、ごく稀に家族内の遺伝的要因が関与し、発生するケースもあります。
染色体分裂のエラーと母親の年齢の関係
トリソミーの主な原因は、減数分裂時の染色体分裂のエラー(不分離) です。
この不分離が起こると、卵子や精子に通常1本ずつ分配されるはずの染色体が2本残ることで、受精後に3本となる場合があります。
特に母親の年齢が高くなると、この染色体分裂のエラーが起こりやすくなることが分かっています。
これは、女性の卵子は胎児期に作られ、その後は排卵まで何十年も体内で保存されるため、時間の経過とともに染色体分裂の機能が低下し、不分離のリスクが増すためです。
【年齢別のトリソミー発生率の例(21トリソミーの場合)】
- 25歳 … 約1,250分の1
- 30歳 … 約1,000分の1
- 35歳 … 約350分の1
- 40歳 … 約100分の1
- 45歳 … 約30分の1
このように、35歳を超えるとトリソミーの発生率が急激に上昇するため、高齢妊娠では出生前診断(NIPTなど)を検討する人が増えています。
家族内で遺伝する可能性はある?

ほとんどのトリソミーは偶発的に発生し、家族内で遺伝するケースはまれとされています。
しかし、一部のケースでは遺伝的要因が関与することがあります。
① 偶発的なトリソミー(非遺伝性)
多くのトリソミーは、受精前または受精時の染色体分裂のエラー(不分離)によってランダムに発生します。
特に 21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー、13トリソミーの大部分は偶発的なもので、家族歴がなくても発生する可能性があります。
② 転座型トリソミー(遺伝性)
まれに、転座型トリソミーという遺伝性のタイプが存在します。
これは、両親のどちらかが「転座保因者」 である場合に発生することがあります。
転座とは、本来分かれて存在するべき染色体の一部が、別の染色体に付着し、異常な配置になることを指します。
たとえば、21トリソミーの一部(転座型ダウン症) は、21番染色体の一部が別の染色体(通常は14番)に転座することで起こります。
転座保因者自身には症状がなくても、遺伝的要因によって通常よりもトリソミーの発生確率が上がります。
③ 遺伝性の可能性がある場合の検査
家族内にトリソミーの子どもがいる場合や、流産を繰り返している場合、遺伝カウンセリングや染色体検査(親の核型分析)を受けることで、転座型トリソミーのリスクを確認することができます。
ポイント
- トリソミーは基本的に遺伝しないが、一部例外もある
- ほとんどのトリソミーは偶発的なもので、家族歴がなくても発生する可能性がある
- 転座型トリソミーは遺伝する可能性があり、家族の遺伝子検査で確認できる
トリソミーの発生率はどれくらい?
受精卵や胎児期の段階では多くの染色体異常が発生しますが、そのほとんどは着床しないか、化学流産や妊娠初期流産の原因となり、出生に至る割合は多くはありません。
【主なトリソミーの発生率(出生児)】
トリソミーの種類 | 発生率(出生児) |
---|---|
21トリソミー(ダウン症) | 約600~800人に1人 |
18トリソミー | 約8,000人に1人 |
13トリソミー | 約8,000~12,000人に1人 |
クラインフェルター症候群 | 約500~1,000人に1人(男児のうち) |
トリプルX症候群 | 約1,000人に1人(女児のうち) |
XYY症候群 | 約1,000人に1人(男児のうち) |
トリソミーの中でも出生頻度の高いダウン症は、日本では年間におよそ2,000人前後が生まれていると推定されています。(2006年~2016年の調査より)1)
主なトリソミーの種類と特徴
出生後も生存する可能性のある代表的なトリソミーとして、21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー、13トリソミー の3つがあります。
ヒトの常染色体(1~22番染色体)のうち、番号が小さい染色体ほど遺伝子数が多く、トリソミーが発生すると胎児の発育に深刻な影響を及ぼし、その多くは妊娠初期に自然流産となります。
13番、18番、21番の染色体は比較的遺伝子数が少ないため、他の常染色体トリソミーに比べると出生に至る可能性があります。
特に21番染色体はヒトの常染色体の中で最も小さく、ダウン症候群は比較的高い生存率を持ち、適切な医療や支援のもとで長期生存が可能です。
一方で、13トリソミーと18トリソミーは重度の合併症を伴い、多くの赤ちゃんが生後1年以内に亡くなります。
21トリソミー(ダウン症)

ダウン症の主な特徴は、成長の遅れと発達の遅れです。
【ダウン症の特徴】
- 成長障害
- 運動発達は一般の約2倍かかる
- 知的障害(軽度~重度)
- 先天性心疾患や消化器異常などの合併症が多くみられる
- 特徴的な顔貌がみられる
- 母親の年齢が高くなるほど発生頻度が上昇する
- 平均寿命は60歳前後
- 新生児にみられる染色体異常の中で最も多い
身体の成長や運動の発達、心の発達は同年代の子どもと比べてゆっくり進みます。
言葉での表現は苦手なことが多いですが、言葉の理解は良好です。
また、特徴的な顔立ち(つり上がった目・平坦な顔・小さな耳)、筋緊張の低下(低筋緊張)、知的発達の遅れなどが見られます。
さらに、先天性心疾患・消化器の異常・甲状腺機能低下症などの合併症がみられることもあります。
近年は医療の進歩により、平均寿命は60歳前後まで延び、教育支援やリハビリの充実により社会生活を送る人も増えています。
18トリソミー

18トリソミーは症状が重いことが多く、成長障害や著しい運動発達の遅れ、重度の知的発達の遅れがみられます。
【18トリソミーの特徴】
- 重度の成長障害
- 重度の運動発達の遅れ
- 重度の知的障害
- 手足の異常(多指症、内反足など)
- 先天性心疾患や食道閉鎖など、多くの合併症がみられる
- 特徴的な顔貌がみられる
- 母親の年齢が高くなるほど発生頻度が上昇する
- 新生児にみられる染色体異常の中で2番目に多い
心臓、肺、消化管、腎臓など、全身のさまざまな臓器に異常がみられ、呼吸障害を含むさまざまな
合併症がみられます。
言葉でのコミュニケーションは難しいですが、表情や簡単なサインで意思を伝えることができる場合もあります。
出生後1年以内の生存率は10%未満であり、多くの赤ちゃんは生後数週間以内に亡くなります。
近年では、積極的な医療介入により、一部の子どもは数年間以上生存することもあります。
13トリソミー
13トリソミーは症状が重いことが多く、脳の形成異常による重度の知的障害や、呼吸器系、消化器系、中枢神経系、泌尿器系、骨格系など多岐にわたる異常、顔や指の奇形などがみられます。
【13トリソミーの特徴】
- 重度の成長障害
- 重度の運動発達の遅れ
- 重度の知的障害
- 重度の脳の形成異常
- 口唇裂・口蓋裂、頭部や顔の奇形
- 特徴的な顔貌がみられる
- 手足の異常(多指症、内反足など)
- 母親の年齢が高くなるほど発生頻度が上昇する
- 新生児にみられる染色体異常の中で3番目に多い
口唇口蓋裂や多指症、小球眼症や頭皮欠損など、外見上の特徴が現れる割合が高く、心疾患や脳の異常など、さまざまな合併症がみられます。
生存率は極めて低く、無事に生まれても1ヶ月以内に約80%、1年以内に90%以上が亡くなるとされています。
医療の進歩により積極的な治療が行われる場合もありますが、根本的な治療法はなく、対症療法が中心となります。
その他のトリソミーとその影響
21・18・13トリソミー以外の常染色体(1~22番染色体)のトリソミーは、ほとんどは妊娠初期に自然流産し、出生に至ることは非常にまれです。
ただし、「モザイク型」と呼ばれる、正常な細胞と異常な染色体を持つ細胞が混在している状態の場合、まれに出生することがあります。
トリソミーは常染色体だけでなく、性染色体(X・Y)にも発生します。
性染色体トリソミーには、クラインフェルター症候群(XXY)、XYY症候群、トリプルX症候群(XXX) などがあります。
性染色体のトリソミーとは?

通常、男性はXY、女性はXXの性染色体を持ちます。
性染色体のトリソミーは、常染色体のトリソミー(21・18・13トリソミー)に比べて、出生時には明確な身体的特徴がないことが多いです。
そのため、出生時には診断されず、成人後に気づくこともありますが、軽度の学習障害や思春期の発達の遅れ、不妊などをきっかけに検査を受け、診断されることがよくあります。
クラインフェルター症候群

クラインフェルター症候群(XXY症候群)は、男性にX染色体が1本多くなる性染色体異常です。
【クラインフェルター症候群の特徴】
- 男性にしか起こらない
- 精巣が小さく、男性ホルモンが少ない
- 男性器の発達が未熟
- 女性的な脂肪のつき方をする(なで肩、幅広の腰)
- 胸が少し膨らむ(女性化乳房)
- 声変わりしない、または声変わりが遅い
- ほとんどの人が無精子症であり、不妊症の割合が高い
- 知的発達は正常かやや低め
- 高身長
クラインフェルター症候群は、出生時には外見上の特徴がほとんどなく、診断されないことが多いです。
思春期以降、男性的な体つきが十分に発達せず、むしろ女性的な特徴が表れることがあります。
また、結婚後に不妊の検査で初めて発覚するケースも少なくありません。
一般的に深刻な健康問題は少なく、クラインフェルター症候群だと一生分からない人が大半だと考えられています。
XYY症候群
XYY症候群は、男性にY染色体が1本多くなる性染色体異常です。
【XYY症候群の特徴】
- 男性にしか起こらない
- 軽度の発達の遅れ
- 学習障害
- 発話の遅延
- 運動能力の遅れ
- 知能は正常範囲内
- 正常な生殖能力を持つ
- 身長が高め
XYY症候群の人は、一般の人より身長が高めで、手足が長い傾向にあります。しかし、外見上の特徴はほとんどなく、重篤な合併症もないため、診断を受けずに過ごしている人が多いと考えられています。
性機能は正常ですが、一般よりも造精機能障害(精子を造り出す機能に問題)のリスクが高い傾向にあります。
軽度の発達の遅れ、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)などが行動の特徴としてみられることがありますが、知能は正常範囲内で、大半の人は特別な治療を必要としません。
特別な医学的ケアは不要なことが多いですが、学習や発達支援を受けることで、より円滑な社会生活を送ることができます。
トリプルX症候群
トリプルX症候群(トリソミーX)は、女性にX染色体が1本多くなる性染色体異常です。
【トリプルX症候群の特徴】
- 女性にしか起こらない
- 言葉や知的発達の遅れ
- 学習障害
- 運動能力の遅れ
- 知能は正常範囲内とされる
- 正常な生殖能力を持つ
- 身長が高め
トリプルX症候群の人は、身長が高めである一方、低体重の傾向がみられます。しかし、外見上の特徴はほとんどなく、重篤な健康問題がないことが多いため、診断を受けずに過ごしている人が多いと考えられています。
卵巣発育不全などにより月経不順や不妊症がみられることがありますが、多くの場合、性的発達は正常で、妊娠・出産も可能です。
言葉や知的発達の遅れ、学習障害、運動能力の遅れがみられることがありますが、知能は正常範囲内とされ、日常生活に大きな影響を与えることは少ないとされています。
まれな常染色体トリソミー
通常、常染色体(1~22番)のトリソミーは胎児期に致命的となり、多くは妊娠初期に自然流産します。
しかし、モザイク型(一部の細胞のみがトリソミーの状態)として発生した場合、ごくまれに出生することがあります。
報告されているまれなモザイク型トリソミーには、7トリソミー、8トリソミー、9トリソミー、10トリソミー、12トリソミー、14トリソミー、16トリソミー、20トリソミー、22トリソミーなどがあります。
これらのトリソミーは、成長の遅れ、知的発達の遅れがみられることがあり、特徴的な外見や内臓の異常を伴うことが多いですが、症状の程度は個々に異なります。
モザイク型の発現頻度は低く、診断には染色体検査(核型分析)が必要です。
症状の程度に応じて、医療的ケアや発達支援を受けながら生活することが可能です。
妊娠中に可能なトリソミー検査の種類
妊娠中にトリソミー(染色体異常)を調べる方法には、異常の可能性を調べる「スクリーニング検査(非確定検査)」と、確実に診断ができる「確定検査」 があります。
【出生前診断の種類と特徴】
検査の種類 | 実施時期 (妊娠週数) | 特徴 | 対象疾患 | 流産リスク | 確定診断の可否 |
---|---|---|---|---|---|
NIPT | 10~16週 | ・高精度でリスクを判定 ・母体への負担なし | ・ダウン症 ・18トリソミー ・13トリソミー ・その他染色体異常 | なし | × |
コンバインド検査 | 11~13週 | ・偽陽性率が5%程度と高い ・ダウン症の検出率は約80% | ・ダウン症 ・18トリソミー | なし | × |
母体血清マーカー検査 | 15~18週 | ・比較的低コストだが精度はやや低い | ・ダウン症 ・18トリソミー ・神経管閉鎖障害(無脳症・二分脊椎など) | なし | × |
羊水検査 | 15~18週 | ・確定診断が可能 ・全染色体異常および一部の遺伝子異常を調べられる | ・すべての染色体異常 ・一部の遺伝子異常 | 約0.3% | 〇 |
絨毛検査 | 11~14週 | 早期に確定診断が可能 | すべての染色体異常 | 約1% | 〇 |
★検査選びのポイント★
- スクリーニング検査(NIPT・コンバインド検査・母体血清マーカー検査)は確定診断ではない
- 陽性の場合は羊水検査や絨毛検査で確定診断を行う
- 確定診断を希望する場合は羊水検査 or 絨毛検査
- ただし流産リスクを伴うため慎重な判断が必要
- NIPTの対象疾患は実施施設によって異なる
- 一部の施設では性染色体異常や微細欠失症候群(1p36欠失症候群、ディジョージ症候群など)も検査可能
まとめ
トリソミーとは、通常2本1対の染色体が3本になる染色体異常のことを指します。
主に出生する可能性があるのは、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの3種類であり、それぞれ特有の症状や特徴がみられます。
21・18・13トリソミー以外の常染色体トリソミーは、ほとんどは妊娠初期に自然流産し、出生に至るケースはごくまれです。
性染色体のトリソミーは、出生時には目立った身体的特徴がないことが多く、軽度の学習障害や思春期の発達の遅れ、不妊などをきっかけに診断されることが少なくありません。
DNAサイエンスで調べることができる染色体異常については、こちらをご参考にしてください。
【参考URL】