
赤ちゃんが生まれる前に何らかの先天性の病気がないか調べる検査として数種類の出生前診断がありますが、母体血清マーカー検査(クアトロテスト)もその一つです。
今回はこの検査ではどのようなことが分かるのか?いつ頃受けられるのか?など、基本的な情報を分かりやすくご紹介していきます。
母体血清マーカー検査(クアトロテスト)とは
母体血清マーカー検査とは、妊婦さんの血液中に含まれる特定の物質(マーカー)を測定することで、胎児のダウン症などのリスクを評価するスクリーニング検査のことです。
母体血清マーカー検査の中でも、測定するマーカーの種類や数によって「トリプルマーカー検査」や「クアトロテスト」などがありますが、現在主流なのが「クアトロテスト™(クアトロ検査)」です。
この検査は妊婦さんからの採血のみで流産リスクがないため、羊水検査などの侵襲的な出生前診断を受けるか悩んでいる妊婦さんが、その必要性を判断するために受けることができます。
ただし結果は確定ではなく、例えば「異常がある可能性は295分の1」といった確率で出るため、どの程度の確率が出たら羊水検査を受けるか事前に考えておく必要があります。
そのほかの出生前診断の種類についてはこちらのコラムをご参考にしてください。
クアトロテストの対象疾患
クアトロテストでは、胎児が以下の疾患に罹患している確率を推定します。
【クアトロテストの対象疾患】
- ダウン症(21トリソミー)
- 18トリソミー
- 開放性神経管奇形
染色体異常の中でも、頻度の高いダウン症と18トリソミーについて調べることができます。
開放性神経管奇形とは、胎児の神経管(脳や脊髄の元となる構造)が正しく発達しないことで生じる先天異常です。
この疾患は胎児発育の初期段階で発生し、無脳症(脳と頭蓋骨の一部またはすべてが欠損している状態)や二分脊椎(脊椎の一部が完全に閉じていない状態で、脊髄が露出する場合もある)が起こる可能性があります。
検査実施時期
【検査実施時期】

検査は妊娠15~18週頃に行われます。
妊娠21週頃まで検査は可能ですが、クアトロテストの結果が出るまでに10日前後必要なこと、確定診断として羊水検査を受ける場合は結果が出るまでに2~3週間必要なこと、中絶(妊娠21週6日まで)を選択しなければならない場合の猶予期間などを加味すると妊娠17週頃までに検査を受けることが推奨されています。
いくつかある出生前診断は、それぞれ検査の方法やわかること、検査時期などが異なりますが、その中でもクアトロテストは妊娠15週以降と比較的遅めです。
検査の方法
クアトロテストは妊娠さんから約10mlの血液を採取し、母体血清中に含まれる胎児由来あるいは胎盤由来ホルモンと、タンパク質濃度を分析します。
胎児に異常があるとこれらの血清マーカーの値に変動が見られるため、一般集団におけるマーカーの濃度の分布をもとにして発症確率を算出します。
確率の算出には血液検査の数値と母体年齢を用います。
費用

検査費用は実施施設によって異なりますが、相場は2~3万円程度です。
出生前診断の中では比較的安価ですが、それでも安くはないため保険がきくか気になるところですが、妊婦健診に含まれる胎児超音波検査を除いて、すべての出生前診断が保険適用外です。
健康保険は病気や怪我をした際の治療費が対象となるため、直接の治療につながらない出生前診断は保険の対象となりません。
同じ理由で、医療費控除や高額療養費制度についても対象外です。
その他の出生前診断にかかる費用の相場についてはこちらのコラムをご参考にしてください。
検査結果の解釈の仕方
クアトロテストの結果は、血液検査の数値と母体年齢から「1/500」といった確率で報告されます。
検査対象の疾患それぞれに基準となる確率(カットオフ値)が設定されており、カットオフ値よりも高い場合は高リスク(スクリーン陽性)、低い場合は低リスク(スクリーン陰性)と評価されます。
例えば、、、
【スクリーン陽性(高リスク)】
クアトロテストの結果でダウン症である確率が「1/150」と報告された場合、「同じように1/150とされた妊婦さん150人の中で、その中の1人がダウン症の赤ちゃんを妊娠している可能性がある」と解釈します。
この場合、「ダウン症である確率は1/150」で「スクリーン陽性:ダウン症の確率がカットオフ値より高い」と報告されます。
結果は高リスクとなりましたが、後述するようにクアトロテストの検査精度はそこまで高くはないため、その後羊水検査で調べたら問題なかった、ということも少なくありません。
【スクリーン陰性(低リスク)】
ダウン症のリスクが「1/1800」と報告された場合、その確率とともに「スクリーン陰性:ダウン症の確率がカットオフ値より低い」と報告されます。
結果は低リスクとなりましたが、「胎児は絶対にダウン症ではない」というわけではないことに注意が必要です。
検査精度
クアトロテストの検査精度は決して高いとは言えず、検出率(感度)は80%程度です。
疾患ごとに感度(疾患のある人を正しく陽性と判定する)は異なりますが、国内でLabCorp Japanが1999~2004年までに行ったクアトロテスト™の結果によると、ダウン症の検出率は86.7%、18トリソミーは77.3%、開放性神経管奇形は83.0%でした(検査総数19,112例)。
この調査によるとダウン症の偽陽性率(本当は疾患なしなのに陽性と判定される)は9%と、陽性的中率は高くないことが伺えます。
検査精度(感度や陽性的中率などの関係)についてはこちらのコラムをご参考にしてください。
クアトロテストでわからないことと限界
●あくまでスクリーニング検査である
クアトロテストは胎児のダウン症などのリスクを調べることができますが、あくまでスクリーニング検査(疾患の疑いがある者を抽出する検査)であるため、その結果は確定ではありません。
●対象疾患以外の先天性疾患については分からない
対象疾患が限られているため、生まれた後にクアトロテストで調べた疾患以外の先天異常が見つかる場合もあります。
●出産年齢が高いと陽性になる可能性が高くなる
クアトロテストは血液検査の結果と母体年齢から確率を算出するため、年齢の影響を受けます。
特に35歳以上では染色体異常の頻度が高くなるため、結果としてクアトロテストでの確率も高く算出されます。
このためダウン症の検査では35~39歳の方は約18%、40歳以上の方では約40%がスクリーン陽性と報告されます。
実際は、35歳の女性からダウン症の子が産まれる確率は0.26%、40歳では0.94%のため、いかに偽陽性率が高いか伺えます。
●検査後の対応を事前に検討しておかないと混乱する可能性がある
検査結果が確率で出ることと、陽性的中率が高くないため「どのくらいの確率が出たら確定検査(羊水検査など)を受けるか?」を事前に考えておかないと、思わぬ結果の場合混乱してしてしまうかもしれません。
まとめ

クアトロテストは胎児のダウン症、18トリソミー、開放性神経管奇形の3種類の疾患について、罹患している確率を推定するスクリーニング検査です。
他の出生前診断と比べて比較的安価である、侵襲性がないことがメリットですが、結果は確率で報告されるため事前にどの程度の確率が出たら羊水検査を受けるか、カップルで話し合っておく必要があります。
検査について正しく理解したうえで、自分たちにとって最適な選択をすることが重要です。
クアトロテストの結果が高リスクを示した場合、追加の診断検査を検討する必要が出てきますが、その際も冷静に判断し、専門医のアドバイスを受けることが推奨されます。
パートナーや家族と話し合い、医療チームと密に連携しながら、妊娠期間を安心して過ごせるよう準備を整えましょう。
スクリーニング検査ながら、検査精度が高いNIPTについてはこちらのコラムをご参考にしてください。
【参考文献】
編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月