妊娠を考えたとき、意識して摂りたい栄養素のひとつが「葉酸」です。
このビタミンは母体の健康を支えるだけでなく、赤ちゃんの健やかな成長に欠かせません。
特に妊娠初期に葉酸を十分に摂取することで、神経管閉鎖障害(脳や脊髄の先天異常)のリスクを低減できることがわかっています。
このコラムでは、葉酸の持つ効果や妊娠を考える女性が知っておきたいポイントをわかりやすく解説しています。
赤ちゃんの未来を守るために、今からできることを一緒に考えてみませんか?
葉酸の効果
葉酸はビタミンB群の一種であり、水溶性ビタミンとして知られています。
主に緑黄色野菜や豆類、レバーなどに多く含まれる栄養素で、体内では特にDNAやRNAの合成に重要な役割を果たしており、細胞の分裂や成長に不可欠な栄養素です。
特に妊娠初期の女性にとって重要な栄養素として知られ、胎児の正常な発育、特に神経管(将来の脳や脊髄になる組織)の形成を助ける働きがあります。
赤血球の形成にも関与しており、血液の健康維持に貢献しています。
さらに、葉酸はアミノ酸の代謝にも関与し、タンパク質の合成を助ける働きもあります。
加えて、ホモシステインというアミノ酸の代謝にも関与しており、体内での様々な代謝過程をスムーズに進める手助けをしています。
このように、葉酸は人体の基本的な成長や発達、そして健康維持に欠かせない重要な栄養素として機能しています。
葉酸不足による胎児への影響
妊娠前から葉酸が不足していると、「神経管閉鎖障害」が発生するリスクが高くなります。
神経管閉鎖障害とは脳や脊髄の先天異常のことをいいます。
神経管は胎児の発育初期に形成される中枢神経系(脳と脊髄)の基礎となる管状の構造です。
妊娠4~6週頃に、外胚葉と呼ばれる細胞層が折りたたまれて形成されます。
この管が正常に閉じることで、脳や脊髄、神経が適切に発達しますが、閉じる過程に問題があると、神経管閉鎖障害が発生します。
胎児の発達における最も深刻な問題の一つで、具体的には以下のような症状が含まれます。
【神経管閉鎖障害の主な疾患】
- 二分脊椎症
- 脊椎や脊髄が正常に形成されない状態
- 下肢の麻痺や感覚障害
- 膀胱・腸機能の障害
- 生涯にわたる医療的ケアが必要となる可能性
- 無脳症
- 脳と頭蓋骨の重度な形成不全
- 残念ながら出生後の生存は極めて困難
- 妊娠早期の超音波検査で発見されることが多い
- 脳瘤
- 頭蓋骨の開口部から脳組織や髄膜が突出する状態
- 突出の程度によって予後は異なる
- 知的障害など神経学的な問題を伴うことが多い
日本での神経管閉鎖障害の発生率は、1万出生(死産を含む)あたり6人程度で推移しており、これは年間におよそ500人の計算になります。
さらに中絶を含めるとその発生率は1.5倍程度になるのではないかと推測する報告もあります。
妊婦さん自身への影響
葉酸が不足すると貧血になりやすく、重症化すると舌の炎症や味覚低下、下痢や認知症が生じることがあります。
葉酸は正常な赤血球の形成やDNA合成、細胞分裂に関与する重要な栄養素ですが、水溶性ビタミンのため、水に溶けやすく体内に蓄積されず、余分な量は尿として排出されます。
そのため体内の貯蔵量が少なく、毎日の食事や栄養補助食品などから必要量を摂取する必要があります。
葉酸が少ない食事を続けていると、比較的短期間(数か月)で欠乏症が現れることがあります。
【葉酸欠乏症】
- 貧血
- 疲労感、めまい、息切れ、動悸、顔面蒼白
- 消化器症状
- 下痢、食欲不振
- 口内の異常
- 口内炎、舌の炎症(舌が赤く腫れ痛みを伴う)
- 神経症状(重度、稀)
- うつ症状、不安感
- 記憶力低下
妊娠中は特に胎児へ十分な酸素を供給するために、母体の血液量が増加します。
貧血が進行すると疲労感や免疫力の低下によって日常生活に支障をきたすだけでなく、胎児の成長にも悪影響を及ぼします。
いつからいつまで摂ればいい?
神経管閉鎖障害発症の予防のためには、食事からの摂取に加えて妊娠を望む1ヵ月前から妊娠3ヶ月まで、サプリメント等で葉酸を積極的に摂ることが厚生労働省によって推奨されています。
神経管は妊娠初期(受胎後約28日)に形成されるため、それまでに十分な葉酸を体内に蓄えておく必要がありますが、この時期はまだ妊娠に気づいていないことが多いため、妊娠を計画する段階で葉酸を摂り始めるようにしましょう。
葉酸はどれくらい摂ればよい?
妊娠中や妊娠を計画する女性は、葉酸を「食事から240㎍/日」に加えて、「サプリメント等から400㎍/日」摂取することが推奨されています。
日本人の食事摂取基準によると、成人女性の葉酸摂取推奨量は「1日に240㎍」です。
これは茹でたほうれん草約220gに相当します(ほうれん草1食あたりの重量は約80g)。
これに加えて、サプリメント等からの葉酸摂取が推奨されているのは、食品中の葉酸は吸収されにくく、体内での利用効率が低いためです。
食品中の葉酸の生体利用率は約50%程度なのに対して、サプリメントに含まれる合成葉酸は、体内での吸収効率が約85%と高く、効率よく利用することができます。
また、1日に葉酸を640㎍摂取しようとすると、ゆでたほうれん草を580g食べなければならず、これはほうれん草の売られている袋で約4袋分に相当します。
もちろん、色々な食事を組み合わせて摂取することにはなりますが、日常の食事でこれだけの量を毎日食べるのは現実的ではありませんね。
葉酸が豊富な食べ物一覧
葉酸はほうれん草やブロッコリーなどの色の濃い野菜に多く含まれていますが、実は鶏や牛のレバー、卵などの動物性の食品にも多く含まれています。
【葉酸を多く含む食品】
調理のポイントとしては、葉酸は熱や水に弱いため、生で食べられる果物や、蒸し調理をする野菜から効率よく摂取しましょう。
葉酸を摂り過ぎるとどうなるか?
葉酸は水溶性ビタミンであり余分な量は尿として排出されるため、通常の食事のみで過剰摂取が問題になることはありませんが、サプリメントや強化食品を過剰に摂取した場合は以下のような健康障害を引き起こす可能性があります。
【葉酸過剰摂取の副作用と影響】
- 吐き気、嘔吐
- 下痢、便秘
- 皮膚のかゆみ、じんましん
- 呼吸障害
- ビタミンB12欠乏症の症状を隠す
葉酸の過剰摂取は、消化器系の不調や過敏症を引き起こす可能性があります。
また、ビタミンB12欠乏症(悪性貧血)の症状を隠す可能性があり、診断が遅れて進行すると神経障害(しびれ、記憶力低下など)を引き起こします。
サプリメント使用時の注意点
サプリメントは特定の成分を濃縮しているため、気づかないうちに必要量を超えて摂取してしまうことがあります。
妊娠を計画する女性や妊娠中の女性には「葉酸をサプリメント等から400㎍/日」摂取することが推奨されているため、市販されている多くの葉酸の栄養補助食品の葉酸含有量はその量に設定されています。
それより多く摂ればより効果が高くなるわけではありませんので、一日推奨摂取量は必ず守ってください。
厚生労働省による葉酸摂取上限値は、サプリメントや強化食品から30~64歳は1,000㎍/日、その他の年齢区分では900㎍/日までとされています。
まとめ
葉酸はDNAの合成や細胞分裂に重要な役割を果たすビタミンで、妊娠初期に十分に摂取することで神経管閉鎖障害(脳や脊髄の先天異常)のリスクを低減できます。
神経管閉鎖障害の予防のためには、食事からの葉酸摂取に加えて妊娠1か月前から妊娠3ヵ月まで、サプリメント等で葉酸を積極的に摂ることが効果的です。
これは食品中の葉酸は吸収されにくく体内での利用効率が低いためです。
葉酸の適切な摂取は、未来の赤ちゃんとママ自身の健康を守ることにつながります。
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