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胎児性アルコール症候群:妊娠中の飲酒がもたらす影響

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author:DNAサイエンス
胎児性アルコール症候群

妊娠がわかると、多くの方が「赤ちゃんのためにできることは何か?」と考えるでしょう。

食事や生活習慣に気をつける方も多いですが、「お酒は少しくらいなら大丈夫?」と迷う方もいるかもしれません。

妊娠中の飲酒は胎児に深刻な影響を与える可能性があり、特に妊娠初期の飲酒は危険です。

胎児の発育や脳の発達に影響を及ぼし、「胎児性アルコール症候群」を引き起こすことがあります。

一度発症すると治療が難しく、生涯にわたる支援が必要になる場合も。

このコラムでは、妊娠中の飲酒がもたらすリスクや、胎児性アルコール症候群の影響、正しい知識について詳しく解説します。

赤ちゃんの健やかな成長のために、ぜひ参考にしてください。

胎児性アルコール症候群の症状と特徴

胎児性アルコール症候群の成人男性

胎児性アルコール症候群とは、妊娠中の飲酒によって胎児に生じる先天的な障害で、流産や死産の原因にもなります。

【主な特徴】

  1. 中枢神経系の障害(知的障害、ADHDなど)
  2. 発育不全(低体重、成長の遅れ)
  3. 特異的顔貌(薄い上唇、平坦な人中、平坦な顔面中央)

アルコールは胎盤を通過し、胎児に直接影響を与えます。

胎児の肝臓は未熟でアルコールを適切に代謝できないため、長時間体内に残り、脳の発達や神経細胞の形成に悪影響を及ぼします。

特に妊娠初期は脳や臓器の形成が活発な時期であり、この期間のアルコール摂取は胎児の発育不全や神経系の異常を引き起こす可能性が高くなります。

胎児性アルコール症候群は完全に予防可能な疾患であり、妊娠中は飲酒をしないことが最も重要です。

中枢神経系の障害・知的障害

特に妊娠初期の器官形成期に妊婦が飲酒をすると、胎児の脳の形成・発達に深刻な障害を引き起こし、知的・行動面の発達に長期的な影響を与えます。

【中枢神経系の障害の主な特徴】

  • 知的障害
  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 発達遅延(特に言語や運動能力の発達に影響)
  • 学習障害(特に記憶力、読解力の困難)
  • 衝動的な行動(思慮深さの欠如)
  • 落ち着きがなく、集中力が続かない
  • 社会的なルールや人間関係を理解しにくい
  • 脳の形態異常(脳梁欠損、小頭症)
  • 脳性小児まひ、てんかん、けいれん

これらの障害は根本的な治療法はありませんので、生涯に渡って特別な支援や療育が必要になります。

発育不全

胎児は母体のアルコールを分解できず長時間体内に留まるため、栄養供給が低下し細胞の成長が阻害され、胎盤の機能も低下します。

その結果、低出生体重(2,500g未満)で生まれることが多く、身長や頭囲が小さくなる傾向にあります。

生後も成長が遅れ、幼児期・学童期になっても平均的な身長や体重に達しにくく、運動発達の遅れも見られます。

また、臓器や筋肉、骨の発達も遅れ、運動能力や健康にも影響を及ぼします。

特異的顔貌

胎児性アルコール症候群の特徴的顔貌

胎児の顔の形成は妊娠初期(4~8週頃)に進行するため、この時期に飲酒をすると、顔の形成異常が起こりやすくなります。

【特異的顔貌】

  • 薄い上唇
  • 平坦で長い人中(鼻と唇の間のみぞがない)
  • 平坦で低い鼻梁(鼻筋)
  • 眼瞼裂短小(目の開きが小さく、目と目の間が広い)
  • 顔の中央部が平坦
  • 顔の各部位が中央寄りになる
  • 内眼角贅皮(目頭の皮膚が被さっている状態)
  • 耳の位置が低い、形の異常
  • 小頭症
  • 小顎症(あごが未発達)

小顎症は、あご先が小さく尖った状態で、成長につれて歯のかみ合わせが悪くなります。

また、目や耳への影響として、斜視や近視、難聴などが発生しやすくなります。

胎児性アルコール症候群の特異的顔貌は診断の重要な指標となり、乳幼児期にははっきりと現れますが、成長とともに目立ちにくくなることもあります。

出生後:いつ分かる?

妊娠中に大量もしくは頻繁に飲酒をしていた母親から生まれた、上記の特徴を持つ新生児は胎児性アルコール症候群が疑われます。

影響が軽度の場合、新生児期には特徴がはっきり現れなくても、幼児期になり行動や認知の問題が現れることで疑われることがあります。

なお、特徴的な顔貌や低体重・低身長などは成長とともに目立ちにくくなりますが、一方で知的障害やADHDなどの発達障害は成長とともに顕在化することがあります。

どのくらいの飲酒で胎児に影響が出るのか?

アルコールを飲む妊婦

妊娠中の飲酒が胎児に与える影響については、安全な飲酒量は確立されていません。

飲酒量が増えるほど胎児への影響は大きくなるとされていますが、少量の飲酒でも胎児に影響が出たという報告もあります。

【少量の飲酒】

以前は、1日あたりエタノール換算で15ml(350mlビール缶1本、ワイングラス1杯)程度であれば胎児への影響は少ないと説明されることもありましたが、現在では少量でもリスクが指摘されており、妊婦には禁酒が指導されています。

【中程度の飲酒】

1日あたりエタノール換算で60mlから90ml(ビール350mL缶4~6本)程度に達すると、胎児性アルコール症候群のリスクが明らかに高まります。

【大量の飲酒】

1日あたりエタノール換算で120ml(ビール350ml缶8本)程度の大量の飲酒は、胎児性アルコール症候群の発症率が30~50%に高まります。

毎日の飲酒でなくても、時々たくさん飲む、アルコール度数の高いお酒を飲むといった場合でも発症率は高まります。

またアルコールによる影響は個人差が大きく、妊婦の体質や体格、年齢などによっても異なることから、安全とされる飲酒量の明確な基準は存在しません。

妊娠初期・中期・後期の飲酒リスクの違い

妊娠のどの時期でも飲酒は胎児に影響を及ぼす可能性がありますが、各段階において異なるリスクを伴います。

妊娠初期の飲酒】

  • 胎児の主要な器官(脳・心臓・神経系・四肢)が形成される時期であり、アルコールの影響を強く受ける
  • 顔貌異常(小さな眼裂・平坦な人中・薄い上唇など)が生じやすい
  • 流産のリスクが上昇
  • 神経発達に影響を及ぼし、知的障害や学習障害の原因となる可能性が高い

妊娠中期の飲酒】

  • 脳の発達に悪影響を及ぼし、知的発達の遅れや注意力の欠如(ADHD傾向)、学習障害などのリスクが高まる
  • 胎児の成長の遅れが顕著になり、低出生体重のリスクが高まる

妊娠後期の飲酒】

  • 胎児の成長が最も進む時期であり、低出生体重や早産のリスクが上昇
  • 中枢神経の発達が継続するため、記憶力や学習能力、行動調節能力に長期的な影響を与える可能性あり

特に妊娠初期は器官形成に大きな影響を及ぼすため最もリスクが高く、中期や後期でも発育や健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

したがって、妊娠中は飲酒を避けることが強く推奨されます。

治療方法

胎児性アルコール症候群は一度発症すると根本的に治す方法はありません。

そのため、症状の管理と適切な支援が重要になります。

治療では、症状に応じた医学的サポートが行われます。

 ADHD傾向には薬物療法が用いられることがあり、運動発達の遅れには理学療法や作業療法が有効です。

療育では、特別支援教育や個別指導を通じて学習能力を高め、認知行動療法(CBT)やソーシャルスキルトレーニング(SST)を活用し、行動の調整能力を高めます。

 また、保護者が適切な対応を学ぶペアレントトレーニングや、福祉制度(療育手帳、児童発達支援)の活用も推奨されます。

成人後も職業訓練や就労支援が必要になることがあり、長期的な支援が重要です。 

胎児性アルコール症候群は予防可能な疾患であり、妊娠中の飲酒を避けることが大切です。

まとめ

胎児性アルコール症候群は、妊娠中の飲酒によって胎児に深刻な影響を及ぼす疾患です。 

特に妊娠初期の飲酒は、顔貌異常、発育不全、中枢神経系の障害を引き起こすリスクが高く、妊娠中期・後期でも知的発達や行動の問題、低出生体重などに影響を与えます。

一度発症すると根本的な治療法はなく、療育や医療的支援が必要です。

特別支援教育、行動療法、薬物療法、家庭での適切な対応が重要となります。

胎児性アルコール症候群は100%予防可能な疾患であり、妊娠中は完全に飲酒を避けることが最も確実な対策です。 

「少量なら大丈夫」という誤解を避け、正しい知識を持つことが、胎児の健康を守るために不可欠です。

よくある質問

以下よくある質問をまとめました。

妊娠前の飲酒は胎児に影響しますか?

一般的に妊娠が確定する前の飲酒は胎児に影響を与えないと考えられています。

しかし、妊娠が判明する前に過度な飲酒を続けていた場合、胎児の重要な器官が形成される妊娠初期(4~8週頃)に影響を与える可能性があります。

妊娠に気づかずお酒を飲んでいましたが大丈夫ですか?

妊娠に気づかずにお酒を飲んでいた場合でも、過度に心配する必要はありませんが、大量に飲酒を続けていた場合は、影響が懸念されるため注意が必要です。

妊娠初期の胎児の器官が形成される時期(妊娠4~8週頃)は、アルコールによる催奇形性のリスクが高まるとされています。

一方、妊娠3週目までは「全か無かの法則」に従い、アルコールなどの影響があった場合、受精卵は着床しないか流産となり、影響がなければ、その後の発育に問題はないと考えられています。1)

そのため、妊娠に気づくのが遅れると胎児に影響を及ぼす可能性があります。

妊娠中に少量のアルコールを飲んでも大丈夫ですか?

妊娠中は少量であってもアルコールを摂取しないことが推奨されます。

アルコールは胎盤を通じて胎児に直接届き、脳の発達や成長に影響を及ぼす可能性があります。

以前は「少量なら問題ない」と考えられていましたが、安全な飲酒量は確立されておらず、個人差も大きいため、少量でもリスクがあるとされています。

また、妊娠のどの時期であっても影響を及ぼす可能性があるため、胎児の健康を守るためには妊娠中の飲酒を完全に避けることが最も安全な選択です。

【参考】

胎児性アルコール・スペクトラム障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省)

1)編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月


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