先天性疾患は、赤ちゃんが生まれつき持っている病気や障害を指し、原因は遺伝や環境など多岐にわたります。
その多くは遺伝子の突然変異など防ぎようのないものですが、予防策や適切なケアを意識することで、リスクを減らせる場合もあります。
このコラムでは、先天性疾患の原因や危険因子をわかりやすく解説いたします。
先天性疾患とは
先天性疾患(先天異常)とは、生まれたときに既に存在する病気や障害のことを指し、「形態異常」と「機能異常」があります。
妊娠中の超音波検査や遺伝学的検査などで診断できるものがあれば、生まれてすぐには気づかれず、少し成長してから症状が現れることもありますが、後天的なものは含まれません。
先天性疾患は手術などの適切な治療や管理によって、改善や進行の阻止が可能な場合もありますが、多くは長期的な障害の原因となり、個人やその家族の社会生活に大きな負担をかけます。
重篤な先天性疾患の中でも代表的なものは、心臓障害、神経管欠損症、ダウン症候群です。1)
早期発見や適切な治療は、子どもの将来の健康や生活の質に大きな影響を与えるため、出生前診断(NIPTなど)や新生児スクリーニングが重要視されています。
形態異常
形態異常とは、身体の構造や形態に異常がある状態です。
器官形成期に特定の器官の一部やその全部が正常な形で形成されなかったり、欠損がある状態で、外見から分かるもの、心臓などの臓器に異常があるものなどがあります。
【先天性の形態異常の例】
- 先天性心疾患(心室中隔欠損症など)
- 神経管閉鎖障害
- 口唇口蓋裂
- 多指症
形態異常は外見からも認識されやすい場合が多く、治療や手術で形態や機能の改善を図ります。
機能異常
機能異常とは、器官や組織は通常の形で形成されていますが、その働きが正常でない状態を指します。
【先天性の機能異常の例】
- 先天性甲状腺機能低下症
- 家族性高コレステロール血症
- フェニルケトン尿症
これらはホルモンを十分に産生できなかったり酵素の働きに異常があることなどで、体内で正常な代謝が行われないことで起こります。
先天性疾患の原因
先天性疾患が起こる原因には、染色体や遺伝子の異常のほか、感染症や化学物質など環境要因によるものがあり、それらが単体もしくは複数が原因で発生する可能性がありますが、多くの場合は正確な原因を特定することは困難です。
先天性疾患は、生まれた100人の赤ちゃんのうち、3~5人の割合で起こります。
【生まれてくる赤ちゃんに先天性疾患が起こる割合】
【先天性疾患の原因とその割合】
- 染色体異常:25%
- 単一遺伝子の異常:20%
- 多因子性:50%
- 環境・催奇形因子:5%
染色体異常
染色体異常は染色体の数や構造の異常によって生じます。
染色体は遺伝情報を持つため、異常が発生すると発育や成長に影響を及ぼします。
先天性疾患のうち、染色体異常は4分の1を占めます。
染色体異常の中で最も多いのがダウン症(21トリソミー)で、半数以上を占めています。
妊婦さんの血液からおなかの赤ちゃんの染色体異常を調べる「新型出生前診断」では、ダウン症、18トリソミー、13トリソミーを基本の検査項目としており、合わせて染色体異常のうちおよそ7割を占めています。
【染色体異常の例】
- ダウン症候群
- 18トリソミー
- 13トリソミー
- クラインフェルター症候群
単一遺伝子の遺伝病
単一遺伝子の変化(突然変異)は、特定の遺伝子に異常が生じることにより発症します。
遺伝子の突然変異は必ずしも悪いことばかりではなく生物にとって有益なものもありますが、一部の突然変異は特定の病気や障害の原因となることがあります。
単一遺伝子の突然変異による遺伝病は優性遺伝と劣性遺伝、X連鎖遺伝に分けられます。
近親婚によって劣性遺伝病が、父親の高年齢化によって優性遺伝病が増えます。
【単一遺伝子の遺伝病の例】
- 進行性筋ジストロフィー症
- 全色覚異常(全色盲)
- 血友病
これらの単一遺伝子疾患は、特定の酵素やタンパク質の欠損や異常を引き起こし、身体の特定の機能に影響を及ぼします。
多因子性
多因子性は、遺伝的要因と環境的要因が複合的に影響して発症する疾患を指します。
複数の遺伝子の変異と生活習慣や環境などの外的要因が関わっていますが、分析技術の発達によって将来的に原因が特定される疾患は増えると考えられています。
【多因子性疾患の例】
- 神経管閉鎖障害
- 口唇口蓋裂
- 先天性心疾患
多因子性の先天性疾患は、発症メカニズムが複雑で完全に解明されていないことが多いですが、家族歴や妊娠中の生活環境が重要なリスクファクターとして挙げられます。
環境・催奇形因子
妊娠中に胎児が母体の環境や特定の物質に曝されることによって生じる先天性疾患の原因として、母体の疾患や栄養状態や感染症、放射線へのばく露、サリドマイドや鉛など特定の化学物質、毒性物質(アルコールを含む)、特定の薬剤などが関与します。
【環境・催奇形因子による疾患の例】
- 水頭症
- 奇形
- 知的障害
- 難聴
妊娠中に母体が風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなどの感染症にかかると、胎児に重篤な影響が生じる可能性があり、風疹では聴覚障害や視覚障害、心疾患などを引き起こすことがあります。
身近なところでは、妊娠中の喫煙やアルコールの摂取によって胎児の脳の発達に影響を与え、知的障害や成長障害を引き起こします。
先天性疾患の中で、環境や催奇形因子による影響は唯一防ぐことが可能です。
先天性疾患の検査方法
先天性疾患の検査方法には、出生前と出生後に行う検査があり、種類もさまざまです。
出生後の検査としては、生まれた直後に一般的に行う新生児のスクリーニング検査と、家族や親族に遺伝性疾患がある場合や出生後に特定の疾患が疑われる場合に行われる遺伝子検査があります。
例えば、力がなく弱々しく感じる、染色体異常に特有の顔つきがある場合などです。
出生前診断とその種類
胎児が先天性疾患を持っているかを妊娠中に調べるための検査として「出生前診断(出生前検査)」があります。
検査の実施期間や侵襲度、検査で分かることなどによっていくつもの種類があります。
【主な出生前診断(検査)】
- NIPT(新型出生前診断)
- 超音波検査
- 母体血清マーカー検査(クアトロテスト)
- 羊水検査
- 絨毛検査
新生児のスクリーニング検査
出生後の新生児マススクリーニング検査は、早期に先天性疾患を発見して治療を開始するために行われます。
足の裏から採血し、フェニルケトン尿症やガラクトース血症など、先天性代謝異常の有無を検査します。
これにより、代謝異常による発育や知能の障害を予防するための治療を早期に開始することができます。
これらの検査は生後数日以内に行われるのが一般的です。
そのほか聴覚や視覚の検査、黄疸のチェックなども行います。
先天性疾患の予防
先天性疾患の中には予防できるものもあります。
リスクを減らすために、妊娠前の準備と妊娠中のケアが重要です。
特に受精直後の妊娠4~9週頃は胎児(胎芽)の中枢神経系や心臓、顔や四肢など主要な器官が作られる重要な時期であるものの、多くの人が妊娠に気づくのは妊娠5週頃です。
妊娠に気づく前のこの時期に過度な飲酒や喫煙、乱れた食生活や生活習慣をしていた場合、胎児に先天性疾患が起こる可能性が高くなります。
妊娠前の注意事項
妊娠を計画する段階で体の健康状態を整えて、環境要因のリスクを排除することで先天性疾患のリスクを低減できます。
【妊娠前にできる先天性疾患の予防】
- タバコ、アルコールの管理
- 予防接種
- 感染症対策
- 十分なビタミンやミネラル、葉酸の摂取
- 持病の管理
- 遺伝カウンセリング
*タバコ、アルコールの管理*
妊娠が発覚してすぐに喫煙や飲酒をやめれば、基本的に胎児に影響はないとされています。
しかし、妊娠に気づくのは一般的に妊娠5~6週頃に妊娠になることが多いため、その間に過度な飲酒や喫煙を続けていると、これらの影響が体内に残り、胎児に影響が及ぶ可能性があります。
*予防接種、感染症対策*
風疹は胎児に影響を与える可能性があるため、免疫がない場合は妊娠前に予防接種を受けておくと安心です。
摂取後は約1か月間の避妊が推奨されます。
そのほか、トキソプラズマ症の感染予防のためにペットとの接触を控えるなど、感染症対策もしっかりと行いましょう。
*食事からの十分なビタミンやミネラル、葉酸の摂取*
胎児の神経管が出来る時期である妊娠初期の前半に、葉酸のサプリメントを摂取することにより、神経管閉鎖障害のリスクが低減することが明らかになっています。
*持病の管理*
妊娠前からの糖尿病があると、先天奇形や流産のリスクが高くなりますので、適切な管理(血糖コントロール)が重要です。
*遺伝カウンセリング*
家族や親族に遺伝性疾患があっても、すべてが遺伝するわけではありません。
遺伝性疾患にはいくつかの種類があり、その発症リスクや遺伝の仕方もさまざまです。
遺伝カウンセリングでは、専門家が家族の遺伝歴やリスクを詳しく評価し、遺伝する可能性があるかどうかや、遺伝するとしてもどの程度のリスクがあるのかをわかりやすく説明してくれます。
こうした情報をもとに、自分自身の健康や家族計画について安心して考えることができるため、不安がある場合には遺伝カウンセリングを受けると良いでしょう。
妊娠中にできること
喫煙や飲酒の影響は妊娠初期だけではなく、全妊娠期間を通して胎児に影響を及ぼす可能性がありますので、妊娠が分かったら禁酒、禁煙は必ず守りましょう。
【妊娠中にできる先天性疾患の予防】
- 禁酒、禁煙
- 妊婦健診の受診
- 十分なビタミンやミネラル、葉酸の摂取
- 感染症対策
*妊婦健診*
定期的な検診によって、胎児の発育状態や母体の健康を確認し、早期に異常を発見することができます。
適切な管理や対応を行うことでリスクを軽減できますので、妊婦健診は必ず受けましょう。
まとめ
先天性疾患の原因と危険因子には、遺伝的要因、環境的要因、そして複合的な要因が関わっています。
遺伝子の変異や染色体異常が原因となる場合もあれば、妊娠中の生活習慣や感染症など環境的な要因が影響を及ぼすこともあります。
妊娠前からの健康管理や適切な栄養摂取、感染症予防が疾患リスクを減らすための重要な対策となります。
妊娠を考える段階から対策を行うことで、先天性疾患のリスクを軽減し、赤ちゃんの健康を守る第一歩となります。
【参考文献】
編著:関沢明彦,佐村修,四元淳子,「周産期遺伝カウンセリングマニュアル 改訂3版」,中外医学社,2020年5月